退職金が危ない!
Updated on 2/24/97

 環境の激変により日本経済は混迷の度合いを増しているが、労働という側面からみれば、日本経済の担い手であった「団塊の世代」が50歳代に入り、定年が60歳のままとすれば、あと10年以内に大量の定年退職者が発生する。また、多くの企業で進行している社員の高齢化と並行して、混迷経済下における転職意識の低下により、勤続年数がさらに長期化することが予想される。この結果、今まであまり例のなかった「定年退職」が急増。企業にとって多額の満額退職金の支払が目前の課題となりつつある。しかし現状は退職金制度や支払準備について未整備の企業が多く、このまま放置すれば退職金倒産という事態も生じかねない危険な状況にある。あなたの会社は大丈夫だろうか?

『安直な退職金算定方法』
 退職金を計算する制度の面から見れば、退職時の基本給に勤続年数に二次曲線的に増加する係数を乗じて退職金を計算する方式を採用している企業が7割強を占めている。これは成長経済及び終身雇用を前提としてきた時代の象徴的な「人質的賃金」である。この退職時の基本給を基礎とするというやり方はあまりに安直である。退職金に在籍中の功労報奨の意味を持たせるのであれば、この退職時基本給連動方式は導入すべきではない。「永年勤続ご苦労さん」と「貢献度の報奨」は別立てにした制度にすべきである。これには最近注目されているポイント制が最も適している。さらに中小企業においては、退職金算定基準は将来を見据えて決めたというよりもある時期に中途退職者が出た時にドロ縄式に決めたものが多い。それが少ないのならまだよいが、目算より多過ぎるものについては非常に困ることになる。これに気がついて、算定基準賃金をあまり上げないよう第二基本給などに逃げる手を打っていくのが通常であるがこれにも問題がある。辞める時の退職金のためにもっと大切な現在の賃金制度を歪めるというのは本末転倒である。

『いいかげんな積立方法』
 中退金や適格退職年金を掛けていてもその管理がずさんであったり、生保会社にお任せであったりして、あまり気にしていないかもしくはご知らないことが多い。特に適格退職年金の導入時には生保の勧めるままに加入し、今になってどうしようもなくなってしまっているケースがある。これは一部生保担当者が「人事制度の一環として退職金制度を設計する」というコンサルティング的な発想をしなかったことが問題を大きくしている。先日も某生保で部長も一般社員も全員一律40年勤続で3000万定額支給(一時金換算)などというとんでもない適格退職年金設計をやっている例があった。当然掛け金は企業規模を考えると過剰なものになっていた。そしてこの規程は「適格」として承認されているため修正は困難。導入にはくれぐれも注意したい。
最後に退職金の制度を整備するうえで重要なことを2点述べる。それは、
1)自社の退職金モデルを作成する。これは学卒標準者をモデルに定年までの退職金のシミュレーションをすることである。
2)年功反映部分と貢献反映を明確に計算できる仕組みにする。これはポイント制に代表される基本給分離型を導入することである。

 以上、制度の整備にしろファンドづくりにしろ、早急に手を打たないと手遅れになるかもしれない。残された時間は少ないのである。