プラス思考の人事評価制度
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Last updated on 9/5/97

1.人事評価制度に起こっている状況
1-1 評価制度に対する社員の意識の変化
 成果主義に関するアンケートを実施すると約80%が前向きな回答を行う状況になり、成果主義的な考え方は従業員の間にも急速に広まっている。しかし実際に成果主義的人事制度の導入が決定すれば多くの敗者が生まれることまでは理解していない。
ポイント a.従業員の意識改革
      b.納得感のある制度

1-2 求められる人材像の変化
  〜組織従属型社員からセルフスターター型社員へ〜

・これまでは各種の規制、業界慣行などにより、一旦「儲かる仕組み」を構築してしまえば、その仕組みの中で一所懸命頑張れば業績が伸びるという要素が強かった。また経済環境自体が右肩上がりであり、特に現状を変革していこうという様な変革型のリーダーの必要性が薄かったと言える。
・よって人材育成、人事育成も詳細な仕事調べを行い、自社の理想的な社員像を明らかにしていく「職能要件書」が時代にマッチしていたと考えられる。
経済の停滞、規制緩和、自由化、ソフト化など新しい時代における競争力の源は、結局人材の競争力となる。
  =付加価値の高い人材を如何に育成、確保するかが大きなポイント
・「組織従属型社員」は市場価値が低く、年齢の高まりにつれ人材含み損(市場価値と支給されている給与の差)が増すことになる。
  =中高年者がリストラの名の下に解雇されるという不幸な結末を迎えることになる。

1-3 評価者に求められる資質の変化
 今後の人事評価制度の下では、部下にその評価結果を納得させる能力が要求される。つまり如何に仕事のデザインができるか、が非常に重要なポイントになる。


2.現在ポピュラーな人事評価制度
a.職能要件書をベースとした人事評価表
 詳細な評価基準の設定には次のような方法がある。一見理想的に見える方法だが、実際には問題が続出してこのとおりにいかないことが多い。
 またこの方法は硬直的であり、結果、労多くして益少ないものと言える。
1.能力基準(職能要件書。資料6)の設定方法と運用
 1)仕事の洗い出しを行う。
 2)仕事(課業)を整理分類して難易度をつける。
 3)職務別に課業を難易度順に並べ替える。
 4)その課業を行うのに必要な知識技能を書き出す。
 5)どこかへ線を引いて「能力等級」を設定する。
 6)社員の能力を判定して等級にあてはめる。
 7)賃金制度をこの能力等級に適合させる。(職能給)
 8)毎年社員の能力判定を行い、上位等級への昇格を検討する。
 9)この職能要件書を公開し、社員技能育成のためのマニュアルとする。
 10)毎年この要件書を見直し、陳腐化しないようにする。
2.詳細な人事考課表の設定方法と運用
 1)成果、情意、能力の3分野について等級別職種別に評価項目を設定する。
 2)評価内容の誤解を避けるため、評価項目毎に説明文を作成する。
 3)普通とか優れるとかいう評価段階にも項目毎に説明文を作成する。
 4)評定者の視点や価値観を揃えるため、これで考課者訓練を行う。
 5)点数化の調整(ウェイトづけなど)と金額換算の設定を行う。
 6)この人事考課表を公開し、自己申告制も採り入れる。
 7)毎年内容の見直しを行い、陳腐化しないようにする。
メリット
 1)仕事の基本的な価値観を提示することができる。
 2)原則として同じ基準で評価されるため、一種の横並び的な公平感はある。
 3)分析評価のため、いろいろな切り口から見ることができる。
デメリット
 1)文字で既定された表現には限界があるため、評価項目の記述に対する不満足感が拭えない。
 2)基準設定=硬直的になるため、環境変化についていけない。後追いになる。
 3)学校の通信簿に一喜一憂する結果論的なしくみになるため、経営の改善、人の改善、動機づけにはなかなかつながらない。評価のための評価に陥り易い。
 この方法は企業が人事評価制度を整備する場合、通常は最初のステップとして通る道です。但し、このやり方は「基準を設定する」という宿命上硬直的であり、かつ横並びの権利意識を助長するものになり、徐々に不具合が生じてきます。
 企業が「セルフスターター型人材を重視する」新しいステップに踏み出そうとする場合には、この方法はかえって足かせになります。もちろん、まだまだ社員の意識レベルが相当未熟で、トップがほとんど采配を揮わなければならない環境であれば当面は有効ですが、いずれは脱皮をする必要があります。

b.目標管理
 目標管理による人事評価制度とは一言で言えば、「期首に定めた目標の達成状況を期末に評価するもの」と言うことができ、a.の職能要件書をベースにした人事評価を行い、その弊害が見え始めた企業が採用する例が多い。
 しかし、この目標管理も妥当な目標の設定が難しい、職種によってはそもそも目標という概念がなじみにくい、目標達成のための活動・支援が十分に行われず立てた目標が絵に描いた餅になってしまう、などといった状況から制度として機能していない例が非常に多く目立っている。


3.人事評価制度の目的
 人事評価を行う目的は企業によって様々である。一般的によく言われる目的を挙げてみると... □賞与や昇給を決める基礎資料とするため。
□差をつければ社員はヤル気を出すだろうから。
□何をもって賞与や給与を決めているか、の説得材料として。
□評価の結果を説明して教育することで社員の活性化を狙う。
□明確な会社目標に向け、その達成度を高めるために評価を連動させる。
※目的は様々であるが、人事評価制度を導入する際には、その目的にあった制度を導入すること(この部分については「4.Yes/Noによる人事評価制度の展開」を参照)と納得感のある人事制度を導入する必要がある。
納得感のある人事制度の条件
a.客観的な評価であること
b.オープンな評価であること
c.評価の内容について事前・事後の話し合いがされていること
d.目標達成に関する上司の援助が十分であること


4.Yes/Noによる人事評価制度の展開
Q1:経営者は予算枠と評価の方向性、そして役員及び部長までの評価を決定をしますが、課長クラスまでの人事評価については現場の長に権限を委譲することはできますか?
□YES→Q2へ □NO→毎回、社長との個人面談(全員)が必要です。上司の同席も必要です。
ステップ1>社員の意見、反省を聞きます。(人事考課表を参考資料に)
ステップ2>社長や上司から前期の反省と評価の結果を伝えます。
ステップ3>次期の期待を話します。
ステップ4>社長と上司の見方が異なる場合は、社長と同じ価値観を持つように上司を指導します。
※小規模企業でしたらこれがいいでしょう。通常は50名を超えたら、経営者は評価の第一線から下がって任せることが今後の組織育成のために必要です。

Q2:評価の結果を個人にフィードバック(告知と教育)する必要を感じますか?
□YES→Q3へ
□NO→どのような人事考課表を使ってもかまいません。(汎用の市販品で充分)
留意点1>自己評価も実施します。
留意点2>コメントを書くようにします。
留意点3>結果を持ち寄って徹底した討議することが必要です。
※この方法は、結局は賞与や昇給を決めるだけの採点作業になります。
※この方法では社員の進歩も上司の管理能力向上も期待できません。
※この環境では評価をする者の視点を統一する考課者訓練はほとんど無駄です。
※評価制度は個人にフィードバックして初めて価値があります。社員が一番嫌がる、つまりモラルを低下させる原因に「自分についての情報が知らないうちに操作され決まっていく=物のように扱われる」ということがあります。人事評価をやって社員のモラルダウンを招いてしまってはいったい何をしているのかわかりません。注意すべき点です。

Q3:評価項目は多岐にわたる詳細な基準が必要と思われますか?
□NO→Q4へ
□YES→等級別かつ職務別に設定する必要があります。場合によっては一人1枚に。

Q4:認定方式、記述方式、加点方式、ポイント方式、を採用したシンプルな評価制度があります。
1.認定方式
 評価の根本に「組織の中での認定活動」という面があります。例えばA氏が課長だとします。組織は何らかの理由によって彼を課長に認定しているという事実があります。この認定の理由は、経験、人柄、業績、能力、リーダーシップ等々、彼固有の「何か」があるのでしょう。賞与や昇給評価でも同じです。要はこの認定の理由を「個別に」明確にして、彼と周囲の組織構成員を説得できればいいわけです。精緻な人事評価表を作成して汎用性や客観性を持たせる必要はありません。重要なのは「認定活動の個別の納得性」です。つまり、
・上司からキチンと説明があったか、とか
・上司の見方は納得のいくものであったか、とか
・上司は目標や課題を共有していたか、とか
といったことを事後に社員にサーベイ(調査)し、公平性を欠く問題行動を指摘、教育して個別に解決していくことが重要なのです。これは考課者訓練をして視点を統一するのとは次元が異なります。
※この重要な過程を省いてしまい、評価表を作ることで汎用性や客観性を持たせようとする試みがなされますが、実はこれは「自信のなさ」から端を発しています。認定をするもしくはしないという説得がうまくできない、そして管理職が信用できないため、無意識に「基準」に頼るのです。

2.記述方式
 現実問題として精緻な評価基準を設定する意義はなくなっています。こういった中で評価を行うには、個別の行動を見た「記述評価」しか採る手はありません。記述評価はプラス面とマイナス面の具体的結果と行動を記述します。ここに主観は必要ありません。もちろん自己評価も実施します。さらに出来れば部下評価、第三者評価も採用したいところです。

3.加点方式
 標準(普通)を決めて上下に分布を行うための評価は評価制度としての意義がありません。単なる計算上の納得性を得んがためのものです。認定方式とか記述評価を採用する場合は、いかに積極的な成果や行動があったかを重視することになります。ダメさ加減を立証する努力は実に不毛です。
 要は彼の実績や行動をどれだけ高く評価したかどうか、という「認定」に立ち戻るわけです。例えば、A氏を「+2評価」と認定する上司の見方、意識、仕事の方針があり、それを幹部会議でぶつける。それがその組織の風土に合っていれば認定されるし、全体を見た場合に「+1評価」に変更をされるかもしれませんが、それはそれでその組織の認定の結果ということになります。もちろん、本人にこの認定結果に至る過程の説明はしなければなりません。
 なお、個人の行動にはペナルティという面も生じますが、これも段階評価とか相殺というのではなく、個別の事情を勘案して例えば10%以内で賞与の減額を行う、という方法になります。もちろん具体的な行動や事績が必要です。