等級制度は本当に必要なのか?
Updated on 3/2/98

1)等級制は必要か?
 私の知る範囲で賃金制度と名のつくのものはすべてランク(等級)があります。楠田式職能給、弥富式能力給、紹介した資格給、職務給…。すべて等級という概念が大きな柱となっています。しかし時々、中小企業で等級なんて本当に存在するのだろうか?という疑問がわきます。特に習熟年数の短い職種の場合は等級概念なんて取ってつけたようなものです。
 考えてみれば、遠い昔から人間の社会にはなんからの階級、等級、ランキングがあります。世の東西を問わず、官の世界はもとより、スポーツ、習い事、そして組織。特に組織には等級が必要不可欠のもののように見えます。この、組織における等級としては次のものが代表的でしょう。
a.役職区分によるもの=職階制
b.能力区分によるもの=職能資格制
c.職務区分によるもの=職務制、責任等級制

 しかし中小企業の人事制度において「等級先にありき」で考えると、これは完全に固定観念だとしか言いようがありません。本来は、
・我が社はなんらかの形で身分段差をつけるべきかどうか。
・段差つけること(等級制を敷くこと)で何かメリットがあるのか。
ということを先に検討しなければなりません。
 一般に等級を設定することのメリットは次のようなものでしょうか。
a.等級の条件を明示することによって目標あるいは圧力を与える。
b.上位等級が厚遇されることを示すことで、昇格努力を促す。
c.等級毎にグルーピングができることで、一律的な管理がし易くなる。

 さて問題は、中小企業において上の項目は果たしてメリットとなりうるものかどうかです。次のはよくある例です。
・名ばかりの主任、係長、課長がいる。実質の長は社長一人という状態。
・技能の習熟期間が比較短期で、ベテランも3年生も同じ仕事。成果も変わらない。
・能力の基準は結局、「気が利くか」とか「よくやっているか」でしか表せない。
・中途採用者が大多数で、その経歴も技能も様々。一律の管理は難しい。
・人数が少ないため、一人の人が何でもこなさなければならない。

などなど…
 よくよく見ると等級など必要がないように思えます。単に年功的給与を維持管理したり、社長の一方的な思惑で動機づけをするためだけに等級を使うことになってしまうのでは、と危惧もされます。

2)能力等級制を導入している会社の問題点
 なんらかの形で人事制度を導入している会社では、まず間違いなく等級制を導入しています。特に一番ポピュラーな能力等級制を導入している場合は、次のような問題が発生しています。
・昇格要件があやふやで、情実で動かされている。当初はあったようだが…。
・能力等級と言いながら能力の基準はない。(作ることも無理だろう)
・下位等級の人のほうが実質的に力がある。
・等級別能力給表が大幅にラップしており、下位等級の高号俸者が2つも3つも上位の等級の初号俸者より高い、という現象が起きている。上位等級だからといって必ずしも下位者より給与が高いとは言えない。
・社員は自分がどこの等級にいるのか全く知らない。等級の存在すら知らない。
・能力等級と役職は乖離するため、実質的に役職単位のグルーピングで管理をされている。

などなど。つまり等級制のメリットが何もなくなってしまっているのです。

3)等級制を使わない人事制度
 こういったことに気づいて全く別の人事制度を構築した会社があります。それは、
a.等級は職階制のみにする。つまり役職(ポジション)に就かなければ等級は上がらない。
b.技能を洗い出して技能に単価をつける。そのための技能審査や評価を行う。

 例えば、「4tトラックが運転できる=5ポイント」、「2つ以上の配送ルートを担当できる=3ポイント」などのように。この累積で給与が決まるしくみです。このポイント職務給に年齢給や勤続給をミックスして賃金体系を設計します。
 いずれにしても人事制度を設計する際に、「等級まずありき」という発想ではなく、どのような目的・メリットがあって等級を設定するのか、という原点から先に検討してみて下さい。