これが中国の人事制度だ!第3回「進出企業の人事制度『等級制度を設計する』」

人事制度設計の基礎となるものが等級制度です。企業が有する部門や、その部門に誰が属しているか、指示命令のラインはどうなっているかについては組織図によって表すことができます。しかし、組織図だけではそれぞれの従業員の関係や組織内における従業員のポテンシャル(潜在能力)については表すことができません。そこで、個々の従業員が組織内のどこに位置付けされているのか、従業員のキャリアパスはどう描いていくのかをデザインするものが等級制度です。

 人事制度には様々な手法の選択肢があるように、この等級制度にもいくつかのパターンがあります。代表的なものとして、①等級を従業員の能力で区分し、組織全体を共通の等級で括り、能力基準を等級定義とする「職能等級制度」、②それぞれの等級は従業員個々が担当する仕事の特異性によって表されるべきものであり、職務遂行のレベルに応じて等級を区分し、ジョブディスクリプション(職務記述書)のような職務定義を基準とする「職務等級制度」があります。

 人事制度を設計していく上でまず検討しなければならないのは、このようにいくつかある等級制度の特性、運用上のメリット・デメリット等を比較しながら、自社でどのような等級制度を運用していくべきかという選択をすることです。この等級制度の設計については、経営理念や事業計画、従業員が担当している仕事の分析、従業員のキャリアデザイン等を通じて議論し、決定します。

 一般的に日本国内の企業では「職能資格制度」による「職能等級制度」が多く用いられておりますが、中国では従業員の欲求として専門性を追及する意識レベルが高いこと、ジョブローテーションを通じてゼネラリストを育成する風潮が醸成されていないこと、更に組織内での職務に応じた賃金水準の格差が大きいこと等から、担当する仕事に応じて等級を設計する「職務等級制度」が理解されやすく、運用しやすい傾向にあります。

 しかし、「職務等級制度」での制度運用を阻害する要因もあります。例えば、従業員の職務遂行レベルは高まっているにも関わらず、日本からの駐在員が部門の長を占めてしまっているような状況が存在すれば、従業員の昇格モチベーションに大きな弊害が現れてしまい、職務等級制度の運用に支障をきたしてしまう結果となってしまいます。このように、等級制度の運用というのは単にどのような制度を導入するかということだけでなく、従業員を中長期的にどのようにマネジメントしていくかという戦略も合わせて検討し、有機的な組織を作っていくことが求められます。(清原学)

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