中国人事管理の先を読む!第4回「進出企業の人事制度(1)『グランドデザイン』」

財団法人社会経済生産性本部(現日本生産性本部)で人事制度のコンサルティングを担当していた1990年頃、企業の人事制度は「職能資格制度」によるものが主流となっており、職能資格制度こそが日本の人事制度の代表格でした。

 日本の職能資格制度の原点は高度成長期における企業の盛隆時代にまで遡り、産業政策、雇用政策により、とにかく人手が必要であり、社員を増やし、その結果役職者が増えることを回避しながらもキャリアパスを設計するために作られたものです。職能資格制度は等級を職務レベルから切り離し、能力レベルで位置付ける制度で、「職能要件書」と呼ばれる等級ごとの能力の定義を行い、従業員の能力に基づいて等級の位置付けを行うものです。90年代後半から企業は業績の悪化に伴い、「成果主義」による人事制度を導入するも、職能資格制度からの完全な脱却までは到底行かず、結果的に年功序列の人事制度をそのまま引きずってきました。

 中国進出企業の人事制度は、その大半が日本本社の制度を受け継いでおり、やがて日本の人事制度である職能資格制度は中国に合っているかという命題に直面することとなります。前述のように、職能資格制度は職務ではなく能力によって従業員を等級に格付けを行うものです。しかし中国の場合、従業員各々が担当する職務(仕事)に対する遂行レベルへの期待感が大きいこと、同一企業内であっても職務ごとの給与水準に大きな差があることから、組織を共通の等級で区分すること自体、運用が極めて困難な状況に陥ることになります。また、従業員の能力レベルを評価することにより等級に格付けするということは、逆に評価(職能要件)を曖昧にせざるを得ないということになり、従業員個々が担当する職務を遂行できる評価(職務要件)に関しては評価が行われないという結果を招いてしまいます。

 このような制度的特性から、職能資格制度は社員のモチベーションや人材市場の賃金水準を吸収するには、それをそのまま中国で運用することはかなり難しい制度であるということになります。では、職務に応じた制度が中国には相応しいか、ということになりますと、職務に対する要件が同じである以上給与が上昇しない、上位のポジションが空かない限り昇格できない等、やはり運用上の問題点が幾つか存在します。

 このように、中国の人材モチベーション、採用とリテイン戦略、今後の所得水準政策等を考えた場合、中国の現状と将来を考えた制度の構築が必要となってまいります。次回からは中国に合った人事制度をひとつずつ紐解いてみたいと思います。(清原学)

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