海外赴任規程の整備と運用第4回「海外赴任の形態」

前回は、海外赴任規程作成の必要性についてお話しました。今回は、海外赴任規程の適用範囲を明確とするために定義をしておきたい海外赴任の形態についてお話します。

1.海外赴任の形態
 海外赴任は大きく分けると、(長期)出張、在籍出向、転籍という3つの形態に分類されます。海外赴任規程の適用範囲を明確にするためには、それぞれの形態の定義をしておくことが望ましいでしょう。以下では、それぞれの形態について紹介をします。

2.
(長期)出張
 出張とは、1日あるいは短期間、通常の就業場所ではなく、遠隔地にある他の就業場所で業務を行うことをいいます。国内出張については、使用者が指揮命令権に基づき、その日の就業場所を当然に命令することができますが、海外出張については、国内出張に比べ出張期間が長期に及ぶ場合もあり、労働環境も大きく異なることから、就業規則において海外出張に関する明確な根拠を定めておくべきでしょう。海外出張中の給与については、国内出張の場合と同様で、通常支払われる給与が支給された上で、会社によっては、海外出張規程に基づき、日当の支給をする場合があります。また、労災保険については、たまたまその日の就業場所が海外というだけであって、国内出張の場合と同様に適用が受けられます。

3.在籍出向
 出向元の会社に籍をおいたまま、海外の別法人にて常態的に勤務する場合が海外出向(在籍出向)にあたります。出向については出向元より出向先に労働契約の権利の一部が譲渡されるため、大きく就業環境や労働条件が異なる場合には基本的に本人の同意が必要となります。特に海外への出向については、生活環境の変化も大きいため、就業規則に出向を命じる旨の記載があるからという理由のみで一方的に命じることなく、個別の同意を得ることが適切であるといえるでしょう。
 海外出向後の給与については、出向先との調整を出向契約書において図りながら、海外給与規程において特別な手当を設けるなどして、海外赴任をすることが本人に不利益にならないような給与設定をすることが一般的です。また、労災保険については、海外勤務の場合、保障の対象外となってしまうため、海外派遣者として特別加入の手続きが必要となります。

4.転籍
 海外の別法人に移り、元の会社との労働契約関係が全く無くなるのが、海外転籍です。転籍の場合は、雇用主自体が変わるため、就業規則などでの包括的な同意では足りず、個別の同意が必須となります。
 転籍後の給与については、転籍先の会社の規程に従うこととなるため、条件が悪くなるような場合には本人の同意が得られないでしょうから、その点についても転籍先との調整の上、配慮が必要となります。労災保険については、日本の会社との雇用関係が全くなくなってしまうため、日本の制度適用は受けられず、転籍先の会社がある国や地域の制度によることとなります。(佐藤和之)

形態

出張

在籍出向

転籍

元の会社との雇用関係

あり

一部あり

なし

実施時の

同意

業務命令にて可能

個別同意が望ましい

個別同意が必要

労災保険

適用あり

原則適用なし(但し、特別加入が可能)

現地制度による


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