中国労務の最新事情~現場からの定点観測~第8回
■中国 労働仲裁と仲裁員の苦悩 第3回
9月に入り、総経理からまた連絡がありました。労働仲裁委員会から通知が来たとのことです。通知をPDFで送ってもらうと、そこには従業員の要求が書かれており、①不当解雇に対する賠償1万2千元、②未払いの残業手当3千元、③労働契約締結のサインをしていないので、不当雇用の賠償金3万元と書かれています。「これは何ですか?」と一つひとつ聞きながら潰していき、「労働契約はきちんと締結しているので③は消えますね、残業手当も払っているので②も消えます、問題は①をどうみるかですね。」というお話をし、私から北京の弁護士に連絡することにしました。仲裁委員会へ提出する抗弁書を作ってもらうためです。
弁護士に一通りの資料を見せ、経緯を話し、措置としては妥当だけどどう思う、と言う話になったとき、弁護士の口から飛び出してきた言葉は、「今回はこれだけのことをしているから、会社が勝つ可能性はあるけれど、北京や天津では、日系企業が勝訴する確率はほとんどゼロです。」というものでした。確かに上海の労働仲裁でも従業員に手心を加えることはあるけれど、そこまで酷くはないので、その理由を聞いてみたところ、その弁護士も仲裁委員から聞いたとのことでしたが、北京や天津の仲裁委員が言うには、「仮に企業が負けても小さなお金で済む。従業員にとっては大金だ。それに、企業が負けても企業の人たちは私たちを殴ったりしないでしょ?従業員はそうはいかない。彼らは自分が負けると私たちに報復を考える。わかってくださいよ。」ということでした。つまり、仲裁委員は自分たちの身の危険を恐れ、従業員に勝たせるしか選択は残っていないと言っているのです。やれやれ、と思いましたね。それであればいったい何をすると罪になるのか。正義とはいったい何なのか。中国の労働仲裁自体が機能不全を起こしているな、と感じながら弁護士の話にうなずくしかありませんでした。~おわり~(清原学)
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