厚労省「新しい時代の働き方に関する研究会」が示した労働基準法制の方向性

 昨日、厚生労働省の「新しい時代の働き方に関する研究会」が開催され、その中間整理の資料が公表されました。
 
 企業を取り巻く環境や働く人の意識、更には個人の企業の関係までもが変化する中で、我が国の企業が活力を維持・向上させていくために「働き方を柔軟に選択し、能力を高め発揮できる環境を整備すること」が求められており、これらを支える仕組みとして「働く人の多様なニーズをくみ取り、それを労働条件や職場環境に反映するための仕組み」が必要との認識に基づき、議論が行われています。
 
 こうした環境の中で、これからの労働基準法制の在り方を考えるに当たっては以下の2つの理念が重要であるとしています。

  1. 画一的な制度を一律に当てはめるのではなく、働く人の求める働き方の多様な希望に応えることのできる制度を整備すること
  2. 働く価値観、ライフスタイル、働く上での制約が個別・多様化しているからこそ、全ての働く人が心身の健康を維持しながら幸せに働き続けることのできる社会を目指すということ

 その上で、新しい時代に即した労働基準法制の方向性として以下のポイントを挙げています。
(1)働く人の健康確保

  • 働く人が安心して働くことができるためには、何よりも健康の確保が重要である。
  • 働き方や働く場所などが多様化し、健康管理の仕組みが複雑化している中で、個々の労働者のおかれた状況に応じた企業の健康管理の在り方を検討すべきではないか。また、労働者自身も健康保持増進を主体的に行う意識を育てるとともに、自らの健康状態を把握することが求められるのではないか。
  • そうした対応を円滑に進めることができるよう、仕事と生活のバランスを含め、労働者が必要に応じて使用者と十分にコミュニケーションを取れる環境が求められるのではないか。
  • 労働者の心身の健康への影響を防ぐ観点から、勤務時間外における業務上の連絡の在り方などについても検討すべきではないか。

(2)働く人の選択・希望の反映が可能な制度へ
■変化に合わせた現行制度の見直し

  • これまでと同様の働き方を望む労働者については、引き続き、労働基準行政が強制力のある規制により労働者の権利を守るべきではないか。
  • 例えば、テレワークなどの職場で働くこと自体が前提とならない働き方が普及するなど、 法に基づく事業場への臨検監督等が馴染まないケースが増加しており、必要な見直しを 行っていくべきではないか。

■個が希望する働き方・キャリア形成に対応した労働基準法制

  • より柔軟な制度適用についての本人の選択を尊重し、労働基準法制がその希望の実現の妨げとならないようにすべきではないか。
  • 多様な働く人の声を吸い上げ、その希望を反映していくための制度の在り方を考えていくことが必要ではないか。
  • 個々の労働者の希望を反映するためには、企業と個々の労働者が必要に応じて個別のコミュニケーションがとれる環境が求められるのではないか。
  • 個々の労働者と使用者との間には情報や交渉力の格差があることから、労働者の希望を集約して使用者とコミュニケーションを図るため、労働者の希望を労働条件の決定に反映させる集団的な労使コミュニケーションの在り方を検討する必要があるのではないか。

(3)新しい時代における働く人の守り方
■効果的・効率的な監督指導体制の構築

  • 監督指導において、AI・デジタル技術を積極的に活用し、事業者が自主点検を行うなどの対応策を確立することが求められるのではないか。
  • 物理的な場所としての事業場のみに依拠しない監督指導の在り方などについても検討すべきではないか。

■労働市場による監視

  • 法の履行確保の手法については、時代の変化に対応して強化・再構築することが必要ではないか。
  • コンサルティングなどの手法にも重点を置き、企業全体の法制度への理解や遵守意識を向上させ、法違反の未然防止を図っていくことも必要ではないか。
  • 企業に労働条件、職場環境などに関する情報の開示を積極的に求めるなど、市場メカニズムを活用する方法も検討すべきではないか。

 2019年の労働基準法改正から、来年で見直し規定で定められた5年が経過します。今後、労働基準法の改正に向けた議論が徐々に高まっていくことでしょう。


参考リンク
厚生労働省「新しい時代の働き方に関する研究会 第12回」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_34628.html

(大津章敬)