労政審分科会で議論が進められるカスハラ対策を措置義務化

 来春には東京都でカスタマーハラスメント防止条例の施行が予定されていますが、現在、労働政策審議会雇用環境・均等分科会では職場におけるハラスメント対策の一環としてカスタマーハラスメント対策を事業主の雇用管理上の措置義務とすることについての議論が進められています。以下では第76回会議で示された論点からその方向性について見てみましょう。

顧客、取引先等からの著しい迷惑行為等(カスタマーハラスメント)対策の強化
(1)雇用管理上の措置義務の創設

  • カスタマーハラスメントは労働者の就業環境を害するものであり、労働者を保護する必要があることから、カスタマーハラスメント対策について、事業主の雇用管理上の措置義務とすることとしてはどうか。
  • その上で、現行法に規定されている4種類のハラスメントの例に倣い、対象となる行為の具体例やそれに対して事業主が講ずべき雇用管理上の措置の具体的な内容は、指針において明確化することとしてはどうか。
  • また、カスタマーハラスメント対策を進めるに当たっては、中小企業を含め、足並みを揃えて取組を進める必要があることから、国が中小企業等への支援に取り組むこととしてはどうか。
  • さらに、業種・業態によりカスタマーハラスメントの態様が異なるため、厚生労働省が消費者庁、警察庁、業所管省庁等と連携することや、そうした連携を通じて、各業界の取組を推進することとしてはどうか。

(2)カスタマーハラスメントの定義

  • カスタマーハラスメントの定義については、「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会報告書」(令和6年8月8日)において示されている考え方を踏まえ、以下の3つの要素をいずれも満たすものとし、それぞれについて以下に掲げる事項を指針等で示すこととしてはどうか。その際には、実態に即したものとすることとしてはどうか。
    ⅰ.顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行うこと。
    ○「顧客」には、今後利用する可能性がある潜在的な顧客も含むと考えられること。
    ○「施設利用者」とは、施設を利用する者をいい、施設の具体例としては、駅、空港、病院、学校、福祉施設、公共施設等が考えられること。
    ○「利害関係者」は、顧客、取引先、施設利用者等の例示している者に限らず、様々な者が行為者として想定されることを意図するものであり、法令上の利害関係だけではなく、施設の近隣住民等、事実上の利害関係がある者も含むと考えられること。
    ⅱ.社会通念上相当な範囲を超えた言動であること。
    ○権利の濫用・逸脱に当たるものをいい、社会通念に照らし、当該顧客等の言動の内容が契約内容からして相当性を欠くもの、又は、手段・態様が相当でないものが考えられること。
    ○「社会通念上相当な範囲を超えた言動」の判断については、「言動の内容」及び「手段・態様」に着目し、総合的に判断することが適当であり、一方のみでも社会通念上相当な範囲を超える場合もあり得ることに留意が必要であること。
    ○事業者又は労働者の側の不適切な対応が端緒となっている場合もあることにも留意する必要があること。
    ○「社会通念上相当な範囲を超えた言動」の具体例
    ⅲ.労働者の就業環境が害されること。
    ○労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどの、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを意味すること。
    ○「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、「同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうか」を基準とすることが適当であること。
    ○言動の頻度や継続性は考慮するが、強い身体的又は精神的苦痛を与える態様の言動の場合は、1回でも就業環境を害する場合があり得ること。
  • また、事業主が個別の事案についての相談対応等を行うに当たっては、労働者の心身の状況や受け止めなどの認識には個人差があるため、丁寧かつ慎重に対応をすることが必要である旨を、指針等において示すこととしてはどうか。
  • さらに、社会通念上相当な範囲を超えた言動には、性的な言動等が含まれ得ることを指針等において明確に示すこととしてはどうか。

 今回の論点では以上の内容以外にも、講ずべき措置の具体的な内容として以下のような事項が挙げられています。

  1. 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発 ・ 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  2. カスタマーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応(カスタマーハラスメントの発生を契機として、カスタマーハラスメントの端緒となった商品やサービス、接客の問題点等が把握された場合には、その問題点等そのものの改善を図ることも含む。)
  3. これらの措置と併せて講ずべき措置

 概ねパワハラの防止措置と同様のものが想定されているようですが、通例であれば来年の通常国会に法案が提出され、2026年4月の施行などが見込まれます。カスタマーハラスメントは既に深刻な問題になっているケースが少なくありませんので、今回の法改正でその対策が進められることが期待されます。


参考リンク
厚生労働省「第76回労働政策審議会雇用環境・均等分科会(2024/11/26)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_45983.html

(大津章敬)