71.3%の中小企業で賃上げが行われるも深まる苦しい状態

今春も多くの中小企業で賃上げが行われましたが、ここ数年のベースアップ等で賃投げ疲れが出ていることに加え、中東情勢の悪化による先行き不透明感の進展などのマイナス要因も見られます。そこで本日は、日本商工会議所および東京商工会議所が公表した「中小企業の賃上げ・賃金改定に関する調査」(2026年6月8日発表)の集計結果に基づき、中小企業の賃上げ動向と人事政策への影響を簡単いにまとめてみます
(1)賃上げ実施企業は7割超、企業の「賃上げ定着」が鮮明に
本調査において、2026年度に「賃上げを実施済」または「実施予定」と回答した企業は全体の71.3%に達し、前年度(69.6%)に引き続き高水準を維持しています。正社員の具体的な賃上げ額は全体平均で11,366円、賃上げ率は4.01%となり、中小企業においても賃上げの動きが定着している実態が伺えます。

(2)背景にある「防衛的賃上げ」の高止まりと人材確保の危機感
一方で、その内実をみると中小企業の苦しい状況が浮き彫りになっています。賃上げを実施・予定している企業のうち、業績の改善が伴わないものの賃上げに踏み切る「防衛的な賃上げ」を行う企業は60.9%に達し、依然として高止まりしています。

防衛的賃上げに踏み切る理由としては、「物価上昇への対応」(68.2%)と「人材の確保・採用」(66.7%)が約7割を占めています。ここから、業績が向上していなくとも、深刻な人手不足への危機感や従業員の生活防衛のために、賃上げを行わざるを得ないという中小企業の厳しい状況が読み取れます。

(3)企業規模および地域・業種間における格差の拡大
注目すべきは、企業規模による「格差」の拡大です。従業員20人以下の「小規模企業」における賃上げ実施・予定の割合は59.9%に留まり、全体平均(71.3%)に比べて11.4ポイントも低くなっています。また、小規模企業の賃上げ額は9,170円、賃上げ率は3.38%と、全体平均を大きく下回る結果となりました。さらに、小規模企業における防衛的賃上げの割合は66.3%と全体を上回って急増しており(前年比3.5ポイント増)、規模が小さい企業ほどより深刻な経営圧迫に直面しています。

業種別では、製造業やIT関連が8割以上の高い賃上げ実施率を示す一方、小売業や宿泊・飲食業といったBtoC業種では実施割合が相対的に低く、業種間の明暗も分かれています。

(4)経営者・人事担当者が進めるべき今後の実務対策
賃上げを見送った企業の理由としては「売上の低迷」(55.0%)や「原材料費等のコスト負担増」(40.3%)が上位を占めています。現場の自由回答からも、「人件費の価格転嫁が難しい」という悲痛な声が多く挙がっています。

以上の状況から、今後、経営者や人事担当者が取り組むべき対策としては以下のような事項が挙げられます。

  1. 適正な価格転嫁の交渉支援・環境整備:コスト上昇分を取引価格へ反映させるため、原価計算の見える化とパートナーシップ構築を進める。
  2. 生産性向上のための環境整備:賃上げ原資を確保するため、業務効率化を推進する。その際、助成金制度などの活用も検討できる。
  3. 人事制度の見直し:賃上げによって多くの企業の賃金制度に不具合が生じていることから、賃上げ時代を前提とした賃金設計が求められます。

この傾向は来年度も一定程度継続することが見込まれます。人事労務の問題ではなく、経営全体の重要テーマとして捉え、早めの対応を進めることが重要です


参考リンク
東京商工会議所「中小企業の賃上げ・賃金改定に関する調査(2026/6/8)」
https://www.tokyo-cci.or.jp/page.jsp?id=1209599

(大津章敬)