解雇予告手当と除外認定
社会保険労務士として、日々、実務に従事していると、法律の定める原理原則から手続論に偏った発想を持ってしまうことがあります。先日も、ある思い込みに対して、原則を再確認した判例がありました。その思い込みとは、「解雇予告手当を支払わないようにするためには、労働基準監督署の除外認定を受けなければならない。」というものです。
多くの方がご存知の通り、労働者を解雇する場合(日々雇い入れられる者などを除く)、30日前の予告又は30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)の支払いが義務付けられています(労働基準法第20条)。しかし、「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合(事実A)」または「労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合(事実B)」については、「この限りではない」とされています。その際、則第7条にて、所轄労働基準監督署の除外認定を受けなければならないとされています。
つまり、事実Aまたは事実Bが存在する場合、解雇予告(又は予告手当支払)義務について「この限りではない」という状況が先に発生し、その場合の行政庁による事実確認手続として「除外認定」が存在するという構成になっている訳です。イメージとしては、『事実A・事実Bの存在 ⇒ 解雇予告・予告手当支払義務の免除』(←除外認定)となります。なお、『 』内が労働基準法第20条に、( )内が則第7条にあたります。しかし、頭の中でいつの間にか「除外認定」という手続の存在にとらわれてしまい、事実A・事実Bの存在 ⇒ 除外認定 ⇒ 解雇予告・予告手当支払義務の免除になってしまっていたようです。
この点について触れた「グラバス事件」の判例を読みながら、思い込みの怖さや、法律構成を確認することの重要性を改めて感じました。
※グラバス事件(平16.12.17東京地裁 労働判例889-52)
経歴詐称を理由として懲戒解雇された契約社員が、解雇無効を求めた事件。懲戒処分の有効性及び、除外認定を受けないままでの解雇予告手当不支給などが争われた。判決では「労働基準監督署長による解雇予告の除外認定は、行政官庁による事実の確認手続きに過ぎず、解雇予告手当支給の要否は、客観的な解雇予告除外事由の存否によって決せられ」るものとし、解雇予告支払義務はないと請求を退けている。
参考1:労働基準法第20条(解雇の予告)
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
参考2:労働基準法施行規則第7条
法第十九条第二項の規定による認定又は法第二十条第一項但書前段の場合に同条第三項の規定により準用する法第十九条第二項の規定による認定は様式第二号により、法第二十条第一項但書後段の場合に同条第三項の規定により準用する法第十九条第二項の規定による認定は様式第三号により、所轄労働基準監督署長から受けなければならない。
(労使コミュニケーションチーム)