営業譲渡と会社分割における労働契約承継方法の違い
昨今、多くの企業において大規模な企業再編が進められています。企業再編には様々な形態がありがすが、本日は営業譲渡と会社分割に焦点を絞って、労働者の労働契約承継方法の違いについて解説をしてみることにしましょう。
営業譲渡(営業の全部または一部を他社へ移転)と会社分割(分割により新規に設立した会社、または既に存在する会社に対して、分割会社の全部または一部を承継させる)は、事業の一部を外部に移転するという点においては非常に似通った制度ですが、労働者の身分関係の取り扱いについては、まったく異なる対応がなされます。つまり、営業譲渡の場合には、労働契約は当然には承継されず、譲渡会社と譲受会社の契約と社員の同意によって初めて労働契約が承継されるのに対し、会社分割の場合には、労働契約承継法に基づき、労働契約上の労働条件は原則すべて承継されることになるのです。
このように比較をすると、労働契約がそのまま引き継がれる会社分割に比べ、営業譲渡においてはその規制が弱くなっています。このような取り扱いの差が発生する背景には、営業譲渡に関する労働契約面での法整備が現時点においてなされていないことがあります。営業譲渡や会社分割の増加に伴い、今後は営業譲渡についても労働者保護関連の取り扱いに関する法整備が進められることもあるでしょう。現在、厚生労働省の研究会では、譲渡方式による場合の労働者の雇用や労働条件に関し求められる配慮が検討されていまずが、実務的には労使での十分な話し合いを通じて、同意を得ることが肝要となります。
参考:営業譲渡の際の努力規定
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/08/h0822-1.html
[譲渡方式による労働者への配慮の違い(研究会報告抜粋)]
ア 通常の営業の一部譲渡の場合
□譲渡会社が、譲渡部門の労働者から同意を得ずに転籍させようとすることによる紛争が生じることがないよう、譲渡会社は転籍について同意を得なければならないことについて周知する必要あり。
□営業譲渡に伴う転籍拒否だけでは解雇の理由とはならず、この場合に、譲渡会社は当該労働者を他の部門に配置転換するなどの対応をしなければならない旨の考え方を明確に示して、企業に周知を図るべきである。
イ 営業の一部譲渡のうち、不採算部門の譲渡などで承継されない労働者がいるために問題が生じている場合
□譲渡部門の労働者の一部が譲受会社に承継されない場合に、譲渡会社は承継されない労働者について配置転換など雇用の継続に最大限努力を払う必要があること、営業譲渡に伴う場合の解雇についても整理解雇に関する法理の適用があること、それまで働いていた部門が譲渡されたことだけでは解雇の正当な理由とはならないことなどを使用者に周知すべきである。
ウ 倒産法制の活用を含め、譲渡会社が経営破綻している場合
□企業再生等に向けて、営業の一部譲渡または全部譲渡が活用されている場合における労働者の雇用や労働条件については、会社更生法等に基づく手続等において、労働組合等に適切な関与の機会が与えられ、管財人等が労働関係法を遵守し、裁判所が手続の過程で雇用等に適切な考慮をすることによって対応されるべきである。
エ 新会社を設立し、営業を全部譲渡する場合
□譲渡会社及び譲受会社間の同一性がある場合で、その法人格が形骸化しているとき、あるいは、解雇法理や不当労働行為制度の適用を回避するために法人格が濫用されたものと認められる場合には、法人格否認の法理を用いて、両者間における雇用関係の存続が認められていること、労働者の承継に関して、不当労働行為に当たるような行為をすることは許されず、また解雇に関する法理を潜脱することもあってはならないことについての考え方を明確に示し、使用者に周知すべきである。
オ 既存の会社に、営業を全部譲渡する場合
□営業の全部譲渡をする場合、譲受会社との間での労働者の受け入れ、譲受会社に承継されない労働者の再就職等について、譲渡会社の積極的な努力を奨励すべきである。
カ 承継対象労働者の選定について
□承継対象となる労働者の選定基準について、譲渡会社との間で適切に協議されることが必要である。また、具体的な人選に当たって、不当労働行為等に該当するような、法律に違反するような取扱いが行われることがないよう、譲渡会社及び譲受会社に対して周知を図る必要がある。
(武内万由美)