退職金単行本プレビュー第4回「適格退職年金解約の取り扱い検討」

 本日は9月に発売予定の退職金単行本プレビューの4回目です。ここでは適格退職年金の取り扱いについて検討しています。適年コンサルを行う際には、現在契約をしている適格退職年金の制度概要および現状を説明した上で、それを解約するのか、他の制度に移行するのかという検討を行います。





宮田部長:
「これが『適年の廃止問題』というものですね。」
大熊コンサル:
「その通りです。平成24年3月をもって、適格退職年金制度は完全に廃止されてしまうため、それまでにその契約を解約し、これまでの積立金を社員に分配するか、他の制度に移行する必要があるのです。ここは重要なポイントですので、図表を用いて解説しましょう。
■図表 適格退職年金改革 5+1の選択肢■:省略
大熊コンサル:
「適格退職年金の改革には5+1の選択肢があります。これは「他制度への移行の選択肢が5つと、その他解約という1つの選択肢がある」という意味です。これらの選択肢について順番に説明しましょう。この問題に関しては、『解約』という選択肢が原則になります。適格退職年金は原則として被保険者(加入者)の同意が必要になりますが、解約するだけであれば、比較的簡単に行うことができます。」
宮田部長:
「当社では3,000万円の積立不足があるのですが、そのような状態でも解約することができるのですか?総合型の厚生年金基金を脱退するような場合には、莫大な特別掛金を基金に支払わないと脱退できないというような話を聞いたことがあります。そのようなことはないのでしょうか?」
大熊コンサル:
「総合型の厚生年金基金から脱退する際に必要となる特別掛金は大きな問題になっていますね。最近は株価の上昇などで基金の財政も最悪な状態から脱しつつあるので、状況は変わっていますが、以前ですと基金の被保険者1人あたり100万円程度の特別掛金を支払わないと脱退できないというような例を非常に多く目にしました。御社に当てはめれば約5,000万円ですか。大変な金額です。しかし、適格退職年金解約の場合にはそのようなことはありませんので、ご心配頂く必要はありません。」
宮田部長:
「そうですか、安心しました。それでは解約した際には、これまで貯めた積立金はどうなるのですか?会社に振り込まれるのですか?」
大熊コンサル:
「いえ、会社には戻ってきません。現在の積立金を一定のルールに基づき個人単位に按分した上で、従業員のみなさんの銀行口座に保険会社から直接振り込まれるという仕組みになっています。先日、新日本生命より取り寄せていただいた解約返戻金の一覧表で見ると、もっとも金額が大きい鈴木部長で、260万円程が個人の銀行口座に振り込まれることになります。」
服部社長:
「退職もしていないのに、260万円もの金額が退職金の前渡しのような形で、本人に振り込まれる訳か。それは問題だなあ。」
大熊コンサル:
「ええ、その上、税制上は一時所得とされるため、一定以上の金額が振り込まれると、社員個人に税金が発生することもあります。こうした理由から、現実的には単純に適年を解約して、社員に分配するという選択をすることは難しいでしょう。これを機会に退職金制度自体を廃止してしまうであるとか、もしくは解約返戻金が非常に少なく、分配しても大きな影響がないような場合以外、なかなか選択し難い手段だと思います。」
服部社長:「そうですね。少なくとも当社では無理でしょう。」


(大津章敬)