作業服の装着時間は労働時間か

 最近は労働時間に関する問題が非常に良く取り上げられますが、確かに実務を行っていると、それを労働時間に含めるべきかどうか判断に迷うことが少なくありません。そうした事例の1つとして、作業服の装着・脱衣時間が挙げられます。就業規則を見ると多くの場合、「始業時刻以前に出社し、就業に適する服装を整える等、始業時間より直ちに職務に取りかかれるように準備しておくこと」というように、作業服の装着・脱衣時間は労働時間ではないとする事例が多くなっています。しかし、判例の中には作業服の装着・脱衣時間は労働時間に該当するとしたものがありますので、ここにご紹介したいと思います。


■三菱重工業長崎造船所事件(平成12年3月9日最高裁判決)


 この判決では「実作業に当たり、作業服・保護具等の更衣所等での装着と、その後の更衣所等から準備体操場までの移動時間、副資材等の受出し、散水、実作業終了以後における作業服等の脱離等の時間は使用者の指揮命令下に置かれたものと認め、労働基準法上の労働時間に当たる」とされました。その上で、「労働基準法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めの如何により決定されるべきものではないと解するのが相当である。そして、労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、またはこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当すると解される」と続けています。


 この会社では、実作業に当たって作業服のほか、所定の保護具・工具などの装着を義務付け、その装着を所定の更衣所または控所等において行うものとしていました。その上で、これを怠ると、就業規則に定められた懲戒処分を受けたり就業を拒否されたりし、また成績考課に反映されて賃金の減収にもつながる場合があったそうです。このように、その業務を行うにあたり必要な装備などがある場合には、その着脱の時間も労働時間として取り扱われることがあるので、注意が必要です。


(日比彩恵子)