企業の吸収合併時における雇用契約の承継

 7月29日の日本経済新聞に、パワードコムがKDDIと合併することで、当社の主要株主である東京電力株式会社とKDDIが大筋合意したとの報道がありました。この合併についてはその後、パワードコムから「合併等具体的に決定していることはない」という旨の公式見解が出されていますが、いずれにしても今後、こうした企業の合併は増加していくことでしょう。そこで本日は、合併時における従業員の労働契約の取り扱いについてお話をしたいと思います。
 
 吸収合併という手続きにおいては、商法103条により存続会社が解散会社の権利義務を包括的に承継するため、労働契約についても原則として存続会社に承継されることになります。そのため今回のパワードコムの合併の件が仮に成立するとすれば、同社の従業員は全員KDDIへ転籍をすることになります。この際、通常の転籍であれば民法625条1項により個々の従業員の同意が必要とされますが、合併に伴う転籍の場合はこの同意は必要とされません。しかし逆に言えば、存続会社の方でも従業員の身分、給与、退職金等も含めて、すべて一旦は包括して承継するということになるため、特定の従業員の転籍を拒むということはできません。
 
 なお、場合によっては合併に伴う人員削減策の一環として従業員を解雇せざるを得ないという状況が出てくることもあるでしょう。この場合は、通常通り整理解雇の4要件に照らした判断を要することになります。「合併に伴う人員削減」という理由のみでは当該解雇は有効とはみなされないというのが通説であり、経営状態、その他合理的な理由が認められる場合でなければ無効となる可能性があるため、慎重な対応が求められます。


参考条文:
商法103条(合併の効果)
「合併後存続する会社又は合併に因りて成立したる会社は合併に因りて消滅したる会社の権利義務を承継す」
民法第625条第1項(使用者の権利の譲渡の制限等)
「使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない。」


(武内万由美)