派遣先による派遣労働者からの個人情報収集

 先日、大手外資系企業が、テロ対策という目的の下に派遣労働者から国籍、旧姓、学歴、逮捕歴等を記載した個人情報の提供を求めるということがありました。これに関して社団法人日本人材派遣協会が厚生労働省に対し、「特定行為」に当たり労働者派遣法違反の可能性があるとして照会文を提出。その結果、厚生労働省より違法の恐れがあるという回答がなされました。
 
 労働者派遣法第26条第7項によると、「派遣契約に基づく労働者派遣に係る労働者を特定する行為をしないように努めなければならない」とされており、これを受けて派遣先事業主が構ずべき措置に関する指針の一部改正第2の3において「派遣労働者が自らの判断の下に派遣先企業に対して派遣就業期間中の履歴書の送付を行うことは、派遣先によって派遣労働者を特定することを目的とする行為には該当せず」と規定されています。つまり、「特定行為」は紹介予定派遣を除き、派遣法において原則禁止とされており、唯一許される例外が派遣労働者自らの意思による個人情報の開示ということになります。
 
 今回のケースでは、調査の結果で派遣契約の是非を判断することは、上述の「特定行為」に該当するとされ、また雇用契約のない派遣先が派遣労働者との間で書類、承諾書等のやりとりをすることは雇用契約の成立とみなされ、労働者供給事業にも該当しかねないという見解が明らかにされました。ちなみにこの場合、労働者供給事業に該当することになると派遣先・派遣元の双方に対して職業安定法より罰則が適用されます(職安法第64条第9号)。一方、個人情報保護法との兼ね合いから言えば、派遣法上に直接的な規定はないものの、個人情報は原則として派遣元を通じて収集すべきであり、また収集する個人情報も就業管理上必要なものに限るとされました。派遣契約においては上記の通り、一般的な雇用契約に比べ労働者からの個人情報の収集方法等、異なる点が多々あります。個人情報保護の気運の高まりに伴い、再度一般的な派遣契約について見直しをされてはいかがでしょうか。


参照条文:
労働者派遣法第26条第7項(契約の内容等)
 労働者派遣(紹介予定派遣を除く。)の役務の提供を受けようとする者は、労働者派遣契約の締結に際し、当該労働者派遣契約に基づく労働者派遣に係る派遣労働者を特定することを目的とする行為をしないように努めなければならない。


職業安定法第64条第9号
第64条 次の各号のいずれかに該当する者は、これを1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
(中略)
9.第44条の規定に違反した者


職業安定法第44条(労働者供給事業の禁止)
 何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。


(武内万由美)