労働契約法 2007年国会提出へ[労働契約法その1]

 9月8日、厚生労働省が労働者と使用者が労働条件の基本的なルールや手続きなどを定める「労働契約法」を制定する方針を決めました。今後、同省の諮問機関である労働政策審議会で法案の細部を詰め、早ければ2007年の通常国会に提出される予定となっています。


 これに対し、9月15日に厚生労働省が昨年4月から開催してきた「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」(座長:菅野和夫明治大学法科大学院教授)より報告書が発表にされました。今後、この報告書に基づき労働政策審議会で法制化に向けた審議が進められることになると思われますが、そのポイントは以下のようになっています。


□労働契約法の性格
 労動基準法とは別の民事上のルールを定めた新たな法律とする。履行確保のための罰則は設けず、監督指導は行わない。紛争については個別労働紛争解決制度によって対応する。
□労働契約法の適用範囲
 労働基準法以外の者であっても、特定の発注者に対して個人として継続的に役務を提供し、経済的に従属している場合は、労働契約法の対象とすることを検討。
□労使委員会制度の整備
 労働条件の決定に多様な労働者の意思を適正に反映させることができる常設的な労使委員会制度を整備し、就業規則の変更の合理性の推定等に活用。
□採用内定の留保解約権行使の条件
 採用内定の留保解約権の行使は、その事由が採用内定者に書面で通知されている場合に限ることとする。採用内定時に使用者が知っていた事由、または知ることができた事由によって採用内定取消しを行った場合、その内定取り消しは無効とする。
□試用期間の上限
 試用期間の上限期間を設定する。
□就業規則による労働条件変更の効力
 就業規則による労働条件の変更が合理的なものであれば労働者を拘束する等の判例法理を明らかにする。
□雇用継続型契約変更制度の導入
 労働契約の変更に関し、労働者が雇用を維持した上でその合理性を争うことを可能とする「雇用継続型契約変更制度」を導入する。
□協業避止義務の制限
 労働者の兼業を制限する就業規則の規定等は、やむを得ない事由がある場合を除き無効とする。
□留学・研修費用の返還条件
 留学・研修費用の返還免除条件としての勤務期間の上限を5年とする。
□解雇の金銭解決制度導入
 解雇が無効とされた場合でも、職場における信頼関係の喪失等によって職場復帰が困難な場合があることから、解雇の金銭解決制度の導入について検討する。この場合、解雇についての紛争の一回的解決を図るとともに、安易な解雇を防止する仕組みとする。
□退職勧奨に基づく退職の意思表示
 労働者が使用者の働きかけに応じて退職の意思表示を行った場合、一定期間これを撤回することができることとする。
□有期労働契約締結時における契約期間の書面明示
 有期労働契約締結時に契約期間が書面で明示されなかった場合には、期間の定めのない契約とみなす。
□有期労働契約における雇止め取り扱い
 「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」で定める手続きを必要とし、更新がありうる旨が明示されていた場合には、差別的な雇止めや労働者が正当な権利を行使したことを理由とする雇止めはできないこととする。


 また、労働契約に関するルールの明確化等の観点からの労働基準法の見直しも盛り込まれています。
□契約期間の上限規制の趣旨が、労働者の退職制限の防止に限られることを明確化する。
□採用内定期間中は解雇予告制度の適用を除外する。
□複数の事業場で働く場合の労働時間の通算規定を見直す。
□労働条件の明示事項や就業規則の記載事項および作成手続を見直す。


 その他、労働基準法第18条の2「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」といったなど民事的効力のみを有する規定については労働契約法に移行する、などがあります。


 以上のように、労働契約法の制定は雇用、解雇ルールの明確化等、今後の労使関係に大きな変化を与えるであろう、大変重要かつ注目すべきものであります。そこでroumu.com blogでは、今回の報告書の中で注目すべきポイントについてシリーズを組み、順次情報提供を行っていこうと考えております。


(労働契約専門チームリーダー:赤田亘久)