労働契約法 報告書に見る注目事項[その2 就業規則]

 先日より「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」の報告書の中で注目すべきポイントに関するシリーズを開始しましたが、本日はその2回目です。今回はこの報告書における就業規則関連のポイントについて解説していきましょう。


 労働基準法は第93条において、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において無効となった部分は、就業規則で定める基準による」と、労働契約と就業規則の関係について規定をしています。このように就業規則の内容を下回る労働契約は無効となり、その部分については就業規則の内容に従うことになります。この点を見ても明らかなように、労働契約と就業規則は密接な関係を持っており、今回の労働契約法制定に合わせる形で、就業規則に関しても以下のような項目について検討案が出されています。


□労働基準法上の就業規則の作成手続
・就業規則の作成に当たっては、現行の過半数組合又は過半数代表者からの意見聴取のほか、労使委員会が該当事業場の全労働者の利益を公正に代表できる仕組みを確保した上で、過半数代表者からの意見聴取に代えて労使委員会または労働者委員からの意見聴取によることを可能にする。


□就業規則に労働契約の内容となる効力を持たせるための規定の創設
・就業規則の内容が合理性を欠くものである場合を除いて、労働者と使用者との間に、労働条件は就業規則の定めるところによるとの合意があったものと推定する。


□就業規則の変更による労働条件の不利益変更
・変更の内容が合理的なものであれば、それに同意しないことを理由として、労働者がその適用を拒否することはできないことを法律で明らかにする必要がある。
・一部の労働者のみに対して大きな不利益を与える変更の場合を除き、労働者の意見を適正に集約した上で、過半数組合が合意をした場合又は労使委員会の5分の4以上の多数により変更を認める決議があった場合には、変更後の就業規則の合理性が推定されるとすることが適当である。合理性は要求されるものの、不利益変更についての規制緩和処置と受け止められる。


□就業規則の効力の発生に必要な要件
・就業規則の効力発生を認めるための要件について、「実質的な周知」が必要であるとすることが適当である。
・就業規則に労働者を拘束する効力を認めるために必要な要件としては、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続きが採られていることを要することを法律で明らかにすることが適当である。
・行政官庁への届出を就業規則の拘束力が発生するために必要な要件とすることが適当である。


 このように、今回の報告書では就業規則の作成手続き、効力発生のための一種のガイドラインを労働契約法に盛り込んでいますが、近年の多くのトラブル事例を反映した非常に実践的な内容が多いと感じています。こうした内容が法律として施行されるとすれば、実務への非常に大きな影響が予想されます。


(労働契約専門チームリーダー:赤田亘久)