労働契約法 報告書に見る注目事項[その5 試用期間・労働条件明示]
今回は労働契約の成立に関わる問題として「試用期間」と「条件明示」について紹介します。試用期間中の労働者というのは労働契約のスタートである採用内定と同様、その企業との関係がまだ短かく、とかく不安定な状況に置かれやすい労働者であるため、立法による保護の必要性が提言されています。
□試用期間の明示とその期間について
労働契約において試用期間を設ける場合の上限を定めるべきとし、特別な理由がある場合は例外として、上限を超える試用期間を設定することを認めることも考える。また、試用期間であることを書面で明らかにしていなければ、通常の解雇よりも広い範囲における解雇の自由は認められないとすることが適当である。
□労働条件の明示
実際に適用される労働条件が、労働条件の締結時に労働者に示された労働条件に達しない場合には、労働者は明示された労働条件の適用を使用者に対して主張できることを明確にする。
試用期間に対する法律的な規定はなく、判例や学説で「採用内定」と同様の解約権留保付労働契約であり、通常の雇用と比較して広い範囲での解雇の自由が認められるものとされています。試用期間を通じて労働者の業務適格性を判断することは、長期雇用を前提とする旧来の雇用慣行において非常に有用なものであり、また逆に雇用の流動化による最近の即戦力採用傾向においても業務遂行能力を確認する重要な期間として、その存在意義が認められます。よって、今回の報告書では、試用期間制度そのものは肯定しつつ、その期間に制限を加えることで、労働者を保護しようとする提言がなされています。適格性判断の必要期間に一律の限度を設けることが可能かという点指摘されていますが、基準は基準として設けた上で、特別な場合に例外を認めるとの構成は妥当性があるのではないでしょうか。もっとも試用期間の制限が強化されるほど、「試用を目的とする有期労働契約(試用雇用契約)を活用するようになる」のではないかという報告の懸念は払拭できていません。
「労働条件の明示」については、当たり前と言えば当たり前とも言える内容ですが、労働基準法が明示内容と異なる場合の即時解除を認めるといった点について契約法上、改めて謳うことには大きな意味があるでしょう。これを受けた実務的な対応ですが、求人・募集時の提示内容をそのまま労働条件とする義務はありませんが、例えば採用段階での不用意な発言を労働条件の明示ととられないよう配慮することが重要になってくることでしょう。
※参照判例:三菱樹脂事件(最判昭和48年12月12日 昭和43年(オ)第932号
http://www.jil.go.jp/kikaku-qa/hanrei/data/217.htm
(労働契約チーム)