利用が進む労働審判制の概要

 今年の4月より労働審判制がスタートし、全国の地方裁判所において審理が開始されています。申し立て件数はまだ数えるほどですが、着実に件数は増えてきています。そんな中、今月8日に名古屋地裁においても制度開始後初となる調停が成立しました。その概要は以下のとおりとなっています。
□概要
 名古屋市中川区在住の女性が、勤務していた梱包会社を相手取り、平成18年4月3日、労働審判委員会へ解雇無効確認等の申し立てを行った。その結果、翌月5月8日に調停が成立し解雇の撤回、女性の職場復帰が確定した。


 労働審判制度とは、これまでうまく機能していなかった「個別労働紛争」分野の労働者保護を趣旨とする制度です。この制度が成立する以前においては、労働局へのあっせん申請、または民事訴訟へ争いの場を移すという方法しかありませんでした。労働局におけるあっせんについてみれば、相手方企業が応じなければそもそも成り立たないといった強制力の弱さがあり、一方、民事訴訟においても費用、時間がかかりすぎるといった難点があるといったように、いずれも使い勝手の良いものではありませんでした。


 これらそれぞれの難点を排除し、利点を集結させたものが、今回成立した労働審判制度です。具体的には短期の期日で強制力のある結論を出す制度となっています。上記の例においては申し立てから1ヶ月足らずで決定がなされており、当事者が感ずる負担感も、これまでの制度に比べて格段に少なくなっています。


 これまでと比べ労働者が利用しやすい制度になったとはいうものの、問題も残されています。それは、あくまでも対象が「個別」労働紛争であるという点です。これがゆえに「集団的」と位置づけされる労働組合は、組合の案件を個人で申し立てる場合を除き、その名目では介入をすることができません。よって、労働者個人が単独で企業と対峙せざるを得ず、ともすれば主張力の弱い労働者が、強制力のある決定をもって望まない結論を甘受せざるを得ない状況に陥りかねないというリスクが混在します。また、これは決して労働者が企業を訴えるのみの制度ではありません。理論的には企業側から労働者を訴えることも可能な制度ですので、今後はより一層、双方が良好な労使関係の構築に気を配る必要が出てくるものと思われます。



参考リンク
裁判所「新しい労働紛争解決制度(労働審判制度)について」
http://www.courts.go.jp/saiban/wadai/1803_02_roudousinpan.html
愛知県労働委員会「個別労働関係紛争のあっせん」
http://www.pref.aichi.jp/rodoi/kobetu/kobetu.html


(武内万由美)


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