団塊世代の定年は消費の牽引となるか

 2006年5月9日付けの日経新聞によると、2007年度から始まる団塊世代の大量退職の日本経済への影響について、野村證券金融経済研究所の阪上亮太エコノミストの試算では、「退職金の合計は一時金以外も含め、09年度までの3年間で53兆円。これらのうち6割は貯蓄や投資に回る」と掲載されていました。


 氏の計算では、消費に振り向けられるのは5兆円程度にとどまるそうですが、さらに同記事を読み進めると、「ただ、ここに団塊の世代ならではの「数の力」が働く。退職金効果に限れば、全体の消費は07年度に0.2%伸びる計算だ。国内総生産(GDP)に換算すると、0.1%のプラス要因となる」と書かれています。しかし、ならばこれが大きな形での消費市場となると見てよいかと言えば、同日付同紙の「消費をつかむ」という欄において、「五十代だけ消費意欲が極端に低い。想定と違う」と記載されています。


 その根拠は、マーケティング調査会社のJMR生活総合研究所の1月の意識調査で、「団塊世代のうち1年前より支出が増えた世帯が14.4%と、全体の27.3%を大きく下回った。支出が減った世帯は29.9%と、全体より11.7ポイント高い。」という結果が出ています。このところ、デパート等での高級品の売上増加や、豪華客船の旅の予約が好調に伸びている等、派手な面での報道が続いていましたが、こいうった動きは継続的なものではなく、「長年働いた自分達へのご褒美」として定年の時に一度だけ行う人生の大きな支出によるものかもしれません。


 また、確かに団塊の世代には数の力が働きますが、彼らの消費を引きとどめさせる要因も数多く存在します。例えば、バブル期に住宅ローンを抱えた人の中には、定年後も引き続き大きな返済負担を背負っている人も多いでしょうし、経済的に自立できていない団塊ジュニアが多いのも事実です。また、彼らの世代の特徴は「堅実」ですので、大金を手に入れたとしても、その財布の紐はなかなか緩まないとも考えられます。また、あまりにも世の中の変化が激しく、将来について不安を抱える人が多いのも事実です。現にこのところ原油高が著しく、インフレの兆しもあります。今お金を使ってもいいものかと不安になるのは私だけではないでしょう。


 団塊世代の定年が大きな消費の引き金となると見込んだ場合、その思惑は大きな予想倒れとなる可能性も大きいような気がします。大きな流れの中で事業を考えたとき、贅沢な視点ではなく、もっときめの細かい配慮の行き届いた商品やサービスに目を向け、なおかつ、大きな期待ではなく小さな的の積み重ねでのプランを立てることが大切です。団塊の「数の力」はそのまま消費にはなかなか結びつきません。いわば、的を絞り遠回りしながらの成功への道です。


(佐藤澄男)


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