【労務管理は管理職の役割】労働時間の適正把握

 管理職は、所属の部下一人ひとりの労働時間を適正に把握する義務を負っていますが、この点に関し、厚生労働省から次のような指針が出ています。
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」
2  労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置
(5) 労働時間を管理する者の職務
 事業場において労務管理を行う部署の責任者は、当該事業場内における労働時間の適正な把握等労働時間管理の適正化に関する事項を管理し、労働時間管理上の問題点の把握及びその解消を図ること。


 このように労働時間の適正な把握が求められている背景には、「賃金不払残業(いわゆるサービス残業)」問題と「安全配慮義務違反」問題があります。この2つの問題を象徴的に示している「電通事件」を簡単に確認しておきましょう。
「電通事件」(最高裁第2小法廷 平成12年3月24日判決)
 長時間にわたり残業を行なうことが恒常的にみられ、残業時間について従業員が現に行なった時間よりも少なく申告することが常態化していたことを認識していたこと、残業が特定の職場、特定の個人への偏りが問題であることも意識していたとして、うつ病にかかり自殺した従業員に対する安全配慮義務違反があるとしたものです。和解額は1億6800万円。


 この事件はまさにサービス残業を放置していたことと、長時間労働に対する安全配慮義務を怠ったために引き起こされたうつ病によって自殺に至ってしまった事件です。労働時間の把握を安易に考えて、労働者任せにするのではなく、管理職の重要な一つの仕事だと認識することが必要です。そして、長時間労働になっている労働者がいたら、その問題点と解消策について、会社の人事責任者などと共に検討しなければなりません。なお、安全配慮義務を十分に果たさず、労働者がうつ病を発症して自殺したとき、または過労死したときには、場合によっては現場を管理監督する立場にある管理職も刑事責任、民事責任を負う可能性があります。前述の電通事件では第一審判決では、上司らの不法行為責任を認めていることを理解しておいてください。


 ちなみに、今月11月は「賃金不払残業解消キャンペーン月間」です。労働者の健康保持のための長時間労働・サービス残業の取締りが強化されています。この機会に職場の労働時間の把握について適正になされているか確認してみてください。



参考リンク
厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」(平成13年4月6日公表)
http://www.mhlw.go.jp/houdou/0104/h0406-6.html
東京労働局「「賃金不払残業解消キャンペーン月間」の実施について」
http://www.roudoukyoku.go.jp/news/2006/20061027-campaign/20061027-campaign.html


(鷹取敏昭)


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