人材を競争で育てる

 日経新聞の「私の履歴書」は毎回楽しみの一つですが、今年1月に連載されたノーベル賞物理学者の江崎玲於奈氏の第22回に、大変興味深い内容がありました。氏が所属していたIBM研究所の人材についての文章ですが、その中にアメリカの競争社会について述べられています。米国は、周知の通り、能力主義の競争社会です。IBM研究所でも能力主義の評価がなされていました。当然IBM研究所でも能力主義が行われ、「私の履歴書」を引用すると、
「研究所において、所員が百人いれば、学校の成績のように、一番から百番まで順位が付けられる」
「トップ10%の人をグリーンと呼び、この人たちは他社からのリクルートの対象となるので特に厚遇策を講じ、一方、ボトム10%の人をオレンジと呼び、いかに穏便に追放するかを考える」

と紹介されています。


 日本、特に我々中小企業においては、社員の順位付けをきっちりと明確に行うというのは、慣習的にも難しいことです。しかし、順位付けはできないまでも、社内を見渡すと、会社の財産とも言うべき人材と、できれば入替えをしたいと思われる社員というのは、色分けできるのではないでしょうか。年功序列から徐々に遠ざかっている現在、会社の財産となる社員には、ある程度の厚遇処置を一定の引き止め策として講じなければなりません。一方で、会社に利益をもたらさない社員についても、ぬるま湯のように社内に残すのではなく、厳しい態度を示す必要も生じています。そして、残りの社員については、いかに能力を伸ばし、財産となる人材に成長させていくかが重要ポイントです。時には社員に競争させ、切磋琢磨して会社全体の水準を上げることも肝要です。


 今後はますます米国のような競争社会化が進んでいきます。社員に対する経営者の視点も、人間としての社員の尊重は大前提ですが、従来の温情主義的な視点から脱皮し、シビアでメリハリある視点に変えていかなければ、企業自体が競争に負けてしまいます。氏の「私の履歴書」は、厳しい競争社会の生き残りを考える上でも非常に学ぶことの多い興味深いものでした。


(佐藤澄男)


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