中国人事管理の先を読む!第33回「権利と法治国家」

中国人事管理の先を読む! 労働仲裁委員会は各区の人力資源社会保障部の管轄になっており、この2つが同居しているのですが、企業と従業員との間で労働争議があり、仲裁を行う際、小生のように中国の弁護士資格を持っていない外国人であっても代理人が務まることをご存知ですか? 手続きは企業が委任状とパスポートを提示するだけの簡素なものですので、小生もよく上海や北京で仲裁の代理人を引き受けています。

 この労働仲裁の代理人を担当するようになり、つくづく実感していることがあります。それは、従業員の権利意識が非常に強いことです。中には常識的に考え、明らかに矛盾を内包した従業員からの不当ともいえる申し立ても見られます。こういった申し立てを労働仲裁委員会が申請の段階で拒否しないこと自体を不思議に思い、直接問い正したこともありますが、「従業員の権利」という言葉で濁されてしまいました。従業員の権利を認めるのであれば、従業員の義務、あるいは企業の権利はどうなるのかという議論には至りません。

 そんな訳で小生は、労働仲裁委員会の労働仲裁の受理に関するプロセスには見直しの必要が大いにあると考えています。現状では、従業員はあまりにも簡単に労働仲裁に持ち込むことができます。しかし、企業に対して不平不満があるならば、従業員はまず一義的に企業に対して主張するべきではないでしょうか。また、一方の仲裁委員もそのプロセスを十分に確認し、もし従業員側に瑕疵(かし)があるならば適切に指導すべきでしょう。

 中国では今年1月1日から、「企業労働紛争協議調停規定」が発効しています。この規定は、労働争議が起きたとき、労働仲裁に諮る前に企業内で解決できることは解決しようとするものです。この数年で労働仲裁の件数が急激に増加したことを受け、制定されたものです。しかし、この規定に基づいた訴えの手続きも、やはり「従業員の権利」を重視したもので、企業側に不利であると感じます。

 多くの日系企業は、努力を尽くして従業員を適材適所で活かそうとする姿勢を持っています。小生も多くの企業を見てきて、そう感じています。仮に企業の従業員に対する処理の方法が法律から外れていたとすればそれは仕方のないことですが、法律に則って処理しています。それでもまだ従業員ばかりを守ろうとする傾向が強いという現実を多く目の当たりにします。「企業は強く、従業員は弱い」という、歴史的、文化的背景によって形成された固定観念に縛られているなと感じてしまいます。


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(清原学)

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