産業競争力会議で示された「日本再興戦略」の改訂について」(素案)に見られる労働時間制度改革の論点

「日本再興戦略」の改訂について(素案) いわゆる「残業代ゼロ法案」が話題になっていますが、マスコミの報道を見ていると全体の改革案の中の特定の一部分のみを切り取った内容になっており、またそうした報道を受けたネット上などの議論も非常に偏った、感覚的なものが多くなっているように感じます。そこで本日は2014年6月16日に開催された「第17回 産業競争力会議」の中で説明された「「日本再興戦略」の改訂について(素案)」の中から話題の労働時間制度改革に関する部分を引用して、ご紹介しましょう。

 以下は、「第二 3つのアクションプラン>一.日本産業再興プラン>2.雇用制度改革・人材力の強化>2-1.失業なき労働移動の実現/マッチング機能強化/多様な働き方の実現>i)働き方改革の実現>(3)新たに講ずべき具体的施策」の中の記述の引用(労働時間関係)です。


 昨年の成長戦略では、「失業なき労働移動」の実現に向け、現在の職を維持する政策から成長分野への移動を支援する政策に大胆に転換した。一方、「世界でトップレベルの雇用環境・働き方」を実現するためには、終身雇用や頻繁な配置転換等に代表される「メンバーシップ型」の働き方に加え、職務等を限定した働き方や時間ではなく成果で評価される創造的な働き方を可能とする新たな制度を構築することが必要である。あわせて、透明で、グローバルにも通用する紛争解決システムを構築することが求められる。このため、今後3年間を雇用環境改善のための集中改革期間と位置づけ、以下の取り組みを進める。
働き過ぎ防止のための取り組み強化
 「世界トップレベルの雇用環境の実現」の大前提として、働き過ぎ防止に全力で取り組む。このため、企業等における長時間労働が是正されるよう、監督指導体制の充実強化を行い、法違反の疑いのある企業等に対して、労働基準監督署による監督指導を徹底するなど、取組の具体化を進める。また、仕事と生活の調和の取れた働き方を推進するため、特に、朝早く出社し、夕方に退社する「朝型」の働き方を普及させる。さらに、我が国の課題である働き過ぎの改善に向けて、長時間労働抑制策、年次有給休暇取得促進策等の検討を労働政策審議会で進める。
時間ではなく成果で評価される制度への改革
 時間ではなく成果で評価される働き方を希望する働き手のニーズに応えるため、一定の年収要件(例えば少なくとも年収1000万円以上)を満たし、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者を対象として、健康確保や仕事と生活の調和を図りつつ、労働時間の長さと賃金のリンクを切り離した「新たな労働時間制度」を創設することとし、労働政策審議会で検討し、結論を得た上で、次期通常国会を目途に所要の法的措置を講ずる。
裁量労働制の新たな枠組みの構築
 企業の中核部門・研究開発部門等で裁量的に働く労働者が、創造性を発揮し、企業の競争力強化につながるよう、生産性向上と仕事と生活の調和、健康確保の視点に立って、対象範囲や手続きを見直し、「裁量労働制の新たな枠組み」を構築することとし、労働政策審議会で検討し、結論を得た上で、次期通常国会を目途に必要な法制上の措置を講じる。その際、現行の裁量労働制が十分に普及せず、労働者が結果的に自律的に働くことができていないという指摘を踏まえ、裁量労働制の本来の趣旨に沿って、労働者が真に裁量を持って働くことができるよう、見直しを行う。
フレックスタイム制の見直し
 子育てや介護等の事情を抱える働き手のニーズを踏まえ、柔軟でメリハリのある働き方を一層可能にするため、月をまたいだ弾力的な労働時間の配分を可能とする清算期間の延長、決められた労働時間より早く仕事を終えた場合も、年次有給休暇を活用し、報酬を減らすことなく働くことができる仕組み等、フレックスタイムの見直しについて、労働政策審議会で検討し、結論を得た上で、次期通常国会を目途に所要の法制上の措置を講じる。

 各種報道ではばかりが強調されていますが、現実的には年収1,000万円以上の非管理監督者は非常に少数であること、また個人同意が導入要件とされていることを考えれば、(少なくとも当面は)「残業ゼロ」はほとんど機能しません。よりも現実的には他の論点の方が実務に与える影響が大きく、中でも上記引用の中でアンダーラインを引いた事項については、労務管理実務へのインパクトが予想されます。今後、9月からの労働政策審議会において具体的な議論がなされ、来年の通常国会での審議が計画されています。まだまだ一筋縄ではいかない内容ではありますが、今後の動向には引き続き注目していきたいと思います。


関連blog記事
2014年5月29日「大きな注目を集める産業競争力会議で示された労働時間制度改革の概要」
https://roumu.com
/archives/cat_1090225.html

参考リンク
首相官邸「第17回 産業競争力会議 配布資料」
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai17/siryou.html

(大津章敬)
http://blog.livedoor.jp/otsuakinori/

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