[医療福祉労務管理連載(6)]不合理な労働条件の禁止
前回、前々回と、労働契約法の改正により定められた3つの新たなルールのうち、無期雇用契約への転換と雇止め法理の法定化について解説をしてきました。今回は、3つ目のルールである、「不合理な労働条件の禁止」について解説します。
有期雇用契約職員は契約更新時における雇止めの不安等があることから、処遇内容を決定する際に、同様の職務を行う正職員と比較して処遇内容が低かったとしても、事業主側に意見を言いづらく、それに対する不満が有期雇用職員側から多く発生していました。こうした状況を踏まえ、有期雇用契約の労働条件を決める際のルールが、労働契約法の改正において明確にされ、有期雇用契約職員と無期雇用契約である正職員との間で、期間の定めがあることを理由として不合理な労働条件の相違を設けることが禁止されています。ただし、このルールは、有期雇用契約職員と正職員との間の労働条件を、完全に同様に取り扱うことを求めているものでは当然なく、両者の間の相違を設ける場合には、合理的な内容でなければならないことを定めたものとなっています。
不合理であるかどうかを問われる対象となる労働条件は、幅が広く、賃金や労働時間等の基本的な労働条件だけにとどまりません。労災発生時の補償や職員として守るべき服務規律、職員研修等の教育訓練、食堂利用等の福利厚生等、待遇の一切が含まれています。そして、労働条件の相違を設けている理由が「期間の定めがあること」のみである場合は、その相違は不合理であると判断されるわけですが、その判断要素としては、具体的に以下の点を考慮し、個々の労働条件ごとに判断されることとなっています。
[判断の要素]
職務の内容
当該職員が従事している業務の内容や、その業務に伴う責任の程度及び範囲
当該職務の内容及び配置の変更の範囲
当該職員の転勤や昇進といった人事異動や、本人の役割変化等の有無や範囲(今後の予定も含まれます)
その他の事情
合理的な内容で反復継続されてきた過去の慣行等
不合理かどうかは、個々の労働条件ごとに判断がされますが、とりわけ、以下に掲げる通勤手当、食堂の利用、安全管理等について相違を設けることは、特段の理由がない限り、合理的とは認められず不合理であると判断される可能性が高いため、注意が必要です。
(1)正職員と勤務時間や仕事内容が同様なのにも関わらず、正職員には通勤手当の支給があり、有期雇用契約職員には支給がない。
(2)食堂を正職員は無料で利用できるが、有期雇用契約職員は有料である。
(3)正職員に対しては労災の上乗せ給付制度を設けているが、有期雇用契約職員には設けられていない。
この新たな規定に基づき、不合理であると判断される労働条件が定められている場合、その定めは無効となり、基本的には正職員と同等内容の労働条件が認められることとなります。また、それに加え、この規定は民事的効力があるとされているため、故意・過失による権利侵害、いわゆる不法行為として損害賠償責任を問われてしまう可能性もあります。
医療機関・福祉施設における対策としては、正職員と異なる定めをしている有期雇用契約職員の各種の労働条件について、有期雇用であることのみが理由となっていないかを確認しておく必要があります。有期雇用契約職員に関する就業規則だけでなく、正職員の就業規則等の内容も見比べながら確認し、整合性があるかどうか、また労働条件について相違を設けている場合には、個々に合理的な理由を示し説明をすることができるかという観点で確認をしておきたいものです。中でも、研修制度や福利厚生制度等に関しては、「契約期間の定めがあること」だけを理由として対象外にしがちであったり、実際には有期雇用契約職員も対象となっているにも関わらず、規定上は正職員のみを対象としているといった場合が見られますので、特に注意が必要です。上記の点検をする際には、そもそも相違を設けることが必要なのか、両者の業務内容や異動範囲等の違いはどこにあるのかということをあらためて検討し、明確にしておきたいものです。
(小堀賢司)
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