金融庁 給与前払いサービスは貸金業に該当せずと判断

前払い 近年、給与の支払日前に勤怠実績に応じた賃金相当額を上限として、給与の前払いを行うというサービスが一部の企業により提供され、飲食などアルバイトが多い企業で利用されています。このサービスが貸金業としての規制を受けるのではないかという議論が行われていましたが、産業競争力強化法に基づく「グレーゾーン解消制度」に基づき、貸金業には当たらないとの回答が金融庁から行われました。

 コンプライアンス上の問題が解消されたことにより、同様のサービスは更に増加し、導入企業も徐々に増えてくるかも知れません。以下がその照会内容と回答となっています。
[新事業の概要]
 照会者は、以下の通り、給与前払いサービスを提供します。
・本サービスを導入する企業(以下「導入企業」という。)に代わり、導入企業の従業員の申請に応じて、照会者が、従業員の勤怠実績に応じた賃金相当額を上限とした給与金額を従業員の給与口座に振り込む。
・導入企業は、従業員に支払われた前払い合計額、銀行振込手数料及び業務委任手数料を照会者に対して支払う(業務委任手数料は、「前払額の一定割合」か「申請件数×固定金額(数百円)」のいずれかの選択制とすることを検討中)。
・導入企業は、従業員に対する賃金の支払い期日に、本サービスを利用した従業員に対して、前払い合計額、銀行振込手数料及び業務委任手数料を賃金から控除した金額を支払う。

[照会内容]
 今般、照会者が導入企業の従業員に支払う給与の前払いが労働基準法第11条に規定する賃金に該当する場合に、照会者の行為が、貸金業法第2条第1項に定める「貸金業」に該当するかについて、照会がありました。

[回答]
 貸金業法を所管する金融庁に確認した結果、以下の回答がなされました。
・貸金業法上、「貸付け」には、「手形の割引、売渡担保その他これに類する方法によってする金銭の交付」が含まれており、必ずしも外形的に金銭消費貸借契約が締結されている必要はなく、貸金業法上の「貸付け」の該当性については、経済的側面や実態に照らして判断している。
・本照会に対する判断については、次のとおりであるが、照会書で確認できる事実内容を前提としており、その内容に変更がある場合、又は新たな事実がある場合には、判断が変わる可能性がある。
・また、当該事業者の従業員への前払いは、労働基準法第11条に規定する賃金の支払いに該当することを前提とするが、当該事業者及び導入企業は、本サービスの提供を開始するにあたっては、賃金支払いの該当性を労働基準法の所管当局にあらかじめ確認する必要がある。
経済的効果
・照会者の従業員への前払額は賃金であり、従業員は照会者に返還する必要がない。また、照会者と導入企業との関係では、業務委任契約に基づき、導入企業の資金繰り等の状況に応じて照会者の判断により本サービスを停止することができるとされており、裏を返せば、仮に本サービスがなくとも導入企業は従業員からの申し出に応じて給与前払いを行うことは可能な者であることが前提と考えられる。したがって、照会者の従業員への前払いは、「従業員の勤怠実績に応じた賃金相当額を上限として」、法令上、毎月1回以上支払われるべき給与の極めて短期間の立替えであり、照会者による前払額を導入企業から都度回収する煩雑さを回避するため、一定期日にまとめて回収しているもので、導入企業による照会者に対する後払いが本質的な要素とまでは言えない。
貸付けの実行判断の有無
・照会者は、従業員に前払いする際、従業員の信用力(返済能力)を調査しておらず、従業員から申請された金額を勤怠実績に応じた賃金相当額を上限として支払っている。手数料については、「前払額の一定割合」又は「申請件数×固定金額(数百円)」のいずれかを導入企業が選択し、かつ、委任事務に係る手数料が導入企業の信用力によらず一定であるのであれば、照会者は、自らの判断、意思決定に基づく、貸付けの実行判断を行っているとまでは言えない。
・貸金業法の目的は、貸金業を営む者の業務の適切な運営の確保、資金需要者の利益の保護であり、仮に契約形態が委任契約であっても、実質的に「貸付け」行為に該当し、貸金業に該当すると整理すべき場合もあるが、
(ア)本サービスは従業員の勤怠実績に応じた賃金相当額を上限とした給与支払日までの極めて短期間の給与の前払いの立替えであって、
(イ)導入企業の支払い能力を補完するための資金の立替えを行っているものではなく、
(ウ)手数料についても導入企業の信用力によらず一定に決められている
との前提の下では、導入企業又は従業員に対する信用供与とは言えず、また、導入企業においても、信用供与を期待しているとまでは言えないことから、貸金業法上の「貸付け」行為に該当せず、貸金業に該当しないものと考えられる。
・ただし、照会者の行為が、従業員又は導入企業に対して、導入企業の支払い能力を補完するための資金の立替えとなっている、又は手数料については導入企業の信用力によらず一定ではないなど、上記前提と相違し、実質的には貸付けを行っていると認められる場合には、導入企業又は従業員に対する金銭の貸付けに該当し、貸金業法第2条第1項に規定する貸金業に該当する可能性が高いと考えられる。


参考リンク
経済産業省「グレーゾーン解消制度に係る事業者からの照会に対し回答がありました~給与前払いサービスの提供について」
http://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181220006/20181220006.html

(大津章敬)

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