家族手当改革の新しい選択肢~イベント時の一時金支給

 友人である加藤社長の話を聞き、自社の家族手当はどうあるべきかを考えてきた服部社長であったが、前回、大熊より話を聞き、配偶者手当は廃止するとしても、子女の教育費負担の重さに対して、支援を行っていこうと考えるようになった。その議論の最後に、毎月の手当ではなく一時金の支給を行うという選択肢があるという提案が大熊からなされた。今回はその続きである。



大熊社労士:
 ちなみにこの家族手当の見直しについては、いまのような傾向だけではなく、毎月の支給ではなく、イベント時に一時金を支給するという方法も最近増えているんですよ。
宮田部長:
 イベント時の一時金?それはどんな内容なんですか?
大熊社労士大熊社労士:
 はい、先ほど家族手当については、教育費の増大に対応するため子女への給付という側面を明確にし、配偶者手当は縮小もしくは廃止、子女への手当を拡充という傾向が強くなってきているとお話しました。具体的には、例えば、従来配偶者手当が15,000円、子女手当が5,000円とされていた場合、トータル原資は大きく変えず、原資を再配分し、配偶者手当を7,500円に減額、子女手当を10,000円に倍増させるというような対応を行う企業が増えています。
服部社長:
 そうですね。
大熊社労士:
 一方、このように支給額を変更するという取り組みに止まらず、支給方法自体を見直し、毎月の支給からイベント毎の一時金支給という方法に変更する企業も出てきています。例えば、子供の出生時に30万円、幼稚園(保育園)・小学校・中学校・高校・大学への進学時にそれぞれ20万円、成人式の際に10万円の育児支援金を支給するといった具合です。この金額だけを見ると高いようですが、例えば、先ほどの例であげた一時金の支給額を合計すると、その総額は1,400,000円になります。これに対し、毎月5,000円のの子女手当を出生から大学卒業までの23年間支給する場合の総額は1,380,000円ですから、決して原資が増えている訳ではありません。こうした一時金化の流れは、公的資格手当などでも見られるところですが、家族手当においては、実際に大きな支出が必要となるイベント時に集中的に原資を振り分け、社員の負担増に応えるという発想で組み立てることになります。
服部社長服部社長:
 なるほど、確かにこうしたイベント時にはまとまったお金がかかるから、社員にとっては非常にありがたい支援になるでしょうね。私も子供が大学に進学するときには、受験費用にその交通費やホテル代、下宿の敷金礼金など、もろもろで100万近いお金がかかりましたからね。ささやかながら、飲みにいく機会を減らしたりして、少しでも家計に協力しましたよ
宮田部長:
 そうですね、このように一時金で支給するメリットは他にもありそうですね。
大熊社労士:
 はい、私もそう思います。賃金制度の設計を支援させていただいている私が言うのもなんですが、社員のみなさんは実はあまり賃金体系には興味がないことが多いですよね。極論すれば給与明細の一番、右下の手取額には興味があっても、どのような手当があるのかということには、日頃なかなか目が向かないようです。よって毎月支給される例えば5,000円の手当というのは、あまりありがたみがないような印象を受けます。それよりも本当にお金がかかるときに、10万とか20万といったある程度まとまった金額が支給されるほうが、インパクトがあり、会社に対する印象も良くなるようです。
宮田部長宮田部長:
 それは間違いないですね。5,000円程度の金額だと、時間外手当にしてせいぜい3時間分くらいしかならないですからね。それに毎月支給されていると、それが当たり前になってしまって、ありがたみが少なくなります。この一時金であれば、社員はもらったという実感をするでしょうね。たぶん社員間ですごい話題になるはずです。
大熊社労士:
 そうですね。また社会保険料の節減にもなるでしょうから、手取りという点でもお得ですね。
服部社長:
 さて、宮田部長、当社はどうしようか?基本的には家族手当の目的は子女に対する支援に絞ることにしよう。支給方法についてはせっかくだから、社懇で社員の意見を求めることにしよう!


大熊社労士のワンポイントアドバイス[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。今回は前回に引き続き、家族手当の改定についての話題を取り上げてみました。次世代育成支援という国の流れに対応し、中堅以上の企業を中心に育児を行う社員への支援を拡充する動きが強まっています。この育児一時金もその一環となりますが、賃金制度の効果性という視点で見ても、対象となる社員へのインパクトが大きく、制度導入に向けた検討を行う価値は十分にあるのではないでしょうか。ちなみに、この家族手当の一時金化を実際に導入している企業で話をお聞きすると、社員にも概ね好評であるとのことです。今後、自社の育児関連の施策を検討される際には、1つの考え方として参考として頂ければと思います。



関連blog記事
2007年2月22日「家族手当の見直しはどのように考えれば良いのでしょうか?」
https://roumu.com/archives/52506365.html
2006年3月6日「家族手当改革に見られる一時金化の動き」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/50426386.html


参考リンク
厚生労働省「次世代育成支援対策(全般)」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/jisedai.html
東京労働局「中小企業子育て支援助成金の創設について」
http://www.roudoukyoku.go.jp/topics/2006/20060419-joseikin/index.html


(大津章敬)


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