休憩時間を工夫することで作業ミス防止、能率の回復を図る!

 いよいよ年度末の3月、来年度における新規計画などを予定している役所や企業からの注文に追われる服部印刷では、業績を伸ばすチャンスであるが、なぜか服部社長の顔が曇りがち。体調が悪いのかと思ったがそうではないらしい。大熊もその様子が気になり、相談に乗ることになった。



服部社長:
 年度末の忙しさはわかるけれども、ここにきてミスが目立ってきているね。
宮田部長宮田部長:
 そうですね。大きなクレームこそ発生していませんが、ヒヤリ・ハットが続いています。また、キャリアの短い社員だけではなく、ベテラン社員もここにきてミスを発生させていますから注意が必要だと思います。
服部社長:
 どうしたらいいだろう。ミスは当社の信用問題に繋がるので避けたいのだが、この忙しさの中であまり強いことは言えないよな。困ったものだ。
大熊社労士:
 ところで、ミスに傾向は見られませんか?例えば特定の部門や時間帯に集中しているようなことはありませんか?
宮田部長:
 そうですね。まず部門や担当者の偏りは見られません。ただ時間帯にはもしかすると傾向があるかも知れませんね。データを集計した訳ではないので感覚的なものではありますが、ミスは所定の終業時刻の後、残業中に発生する傾向が強いように思います。
大熊社労士:
 なるほど。ちなみに御社では休憩時間はどのように設定されていますか?
宮田部長:
 休憩時間ですか?休憩は他社と同じように法律に則って、基本的には正午から1時間取らせています。休憩時間がどうかしましたか?
大熊社労士:
 ええ、確かに労働基準法では労働時間が6時間を超える場合には少なくとも45分、8時間を超える場合には少なくとも1時間の休憩時間を与えなければならないと規定されています。ですが、ここで休憩についてもう少し考えてみましょう。そもそも休憩時間にはどのような意味があるのでしょうか?
服部社長服部社長:
 休憩時間は当然与えなければならないものだと思っていましたので、その意味まで深く考えたことはありませんが、そうですねぇ…。食事やおしゃべり、タバコを吸うなど、社員が自由に利用できる時間といったところでしょうか。
大熊社労士:
 はい、そうですね。休憩時間は、労働から離れることを保障されている時間でますから、原則として社員はその時間をどのように利用しようと自由です。そして同時に休憩には「疲労回復」や「気分転換」といった意味もあるでしょう。
宮田部長:
 大熊先生のおっしゃりたいのは、休憩には生産性や能率を回復させるという意味があるということですね。
大熊社労士:
 はい、そのとおりです。そこでズバリ、作業ミスが発生する時間帯に休憩時間を取るように工夫してみてはいかがでしょうか?
宮田部長:
 なるほど、おっしゃっていることはよくわかりますが、先ほどもお話したように当社では既にお昼に1時間の休憩を与えています。このようなときは、どのように考えればよいのでしょうか?
大熊社労士大熊社労士:
 お昼の1時間休憩はそのまま変更せず、例えば残業時間が90分を超える見込みのときには残業の途中で10分間程度休憩を取ってみてはいかがでしょうか? 所定の終業時刻から残業が終わるまで、休憩を取らずに仕事をするということは、昼食時の休憩後からかなり長時間にわたって仕事をし続けるということになります。そうすると疲労から集中力が低下し、作業ミスが発生する確率が高くなることは十分予想されます。ですから、短い時間でも疲労回復や気分転換が図れるようにしてみることも必要なことではないでしょうか。
服部社長:
 なるほど、そうかも知れませんね。ところで、このような取り扱いをするとき、他に注意しなければならないことはありますか。
大熊社労士:
 残業時間に休憩を設けるということは、短い時間といえども拘束時間を延長するということにもなりますので、社員には十分説明をして、理解を得ておいた方がよいでしょう。同時に、会社が考える休憩の意味をしっかりと伝えると共にルール化し、管理職が休憩の指示を明確に出すことが必要です。一斉に休憩が取りにくい場合は、交代で必ずとるようにさせましょう。また、疲労回復や気分転換ができるように環境を整えるようにもしてください。待機を兼ねた休憩では、十分なリフレッシュにはなりません。また反対に、ルーズになって休憩時間がダラダラと延びたり、休憩時間か仕事の時間か分からないという状態では、かえって生産性を落とし、事故を引き起こしてしまうことにもなりかねません。休憩はしっかり休息する、就業時間は業務に専念するというメリハリのある取り扱いをすべきです。もちろん、できるだけ残業をしないよう所定労働時間内に業務を終わらせるように努めるというのは大前提で、ダラダラ残業を放任していては休憩の意味もなくなってしまいます。
宮田部長:
 社長、早急に現場の管理職と実施可能か確認してみてもよろしいでしょうか。
服部社長:
 宮田部長、そうしてくれ。大熊さん、ありがとうございました。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は休憩時間について取り上げてみました。休憩時間は社員が労働から解放され自由に利用できる時間ですが、疲労回復や気分転換を図ることができる時間でもあります。その時間設定をどのように工夫するかは、生産性の向上やミスの抑制といった面から非常に重要です。服部印刷では昼食時に1時間の休憩を取っていますが、分割して与えることもできます。事実、労災事故撲滅という意識が高い製造業などでは集中力が低下し、事故が発生しやすい午後の時間帯に休憩を設定し、昼食時45分、午後15分で計60分の休憩を与えるような事例が多く見られます。どのような休憩の与え方が良いのかは、それぞれの会社で違いますので、よくご検討ください。また、小規模販売店で社員一人しかおらずオープン作業(10時)およびクローズ作業(21時)に必ず立ち会い関わらなければならないケースでは、1時間の休憩が取れたとしても10時間労働となってしまいます。オープンとクローズの途中の時間帯でアルバイトだけでも対応できるような時間があれば、別に休憩を30分2回取るような工夫を考えてみてもよいでしょう(1日計2時間の休憩)。疲労回復とともに長時間労働を少しでも減らす方法としても有効だと思います。


[関連条文]
労働基準法第34条(休憩)
 使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
2 前項の休憩時間は、一斉に与えなければならない。ただし、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、この限りでない。
3 使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない。


[関連通達]
昭和22年11月27日基発401号、昭和26年10月23日基収5058号
 労働時間とは、実労働時間であり、これが1日8時間を超える場合には、所定労働時間の途中に与えられる休憩時間を含めて少なくとも1時間の休憩時間が与えられなければならない。
昭和61年6月6日基発333号
 休憩を一斉に与える義務は、派遣先の使用者が負うこととされている。派遣先の使用者は、当該事業場の自己の労働者と派遣中の労働者とを含め全体に対し一斉に休憩を与えなければならない。
平成11年1月29日基発45号
 労使協定には、一斉に休憩を与えない労働者の範囲及び当該労働者に対する休憩の与え方について定めなければならないものであること。


(鷹取敏昭)


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