雇用機会均等法改正により性別による差別禁止の範囲が拡大されました
服部社長と宮田部長。長年タッグを組んでいるこの二人であるが、その動き方が対照的。服部社長はいつも余裕をもってドッシリと構えている印象があるのに対し、宮田部長は社内を慌しく走り回っているようだ。面談時間より少し前に到着した大熊社労士は、服部社長と雑談をしつつ、宮田部長がやって来るのを待っていた。
宮田部長:
遅くなって申し訳ありません。やっと4月を迎えたと思ったら、もう来年の4月の新入社員の採用のことでバタバタの状態になっていまして…。申し訳ありませんでした。
服部社長:
この好景気はまだ続きそうなので、当社としても事業を拡大していくつもりだから、優秀な人材の確保をしてくれよ。
宮田部長:
はい、それは重々承知していますが、特にこの東海地方は日本中でもっとも求人環境が厳しい地域なだけに、例年以上に苦戦しています。大熊先生、他社の状況はいかがですか?
大熊社労士:
どこも厳しいようですね。新卒採用に関して言えば、今年はエントリー数が例年の半分以下という企業も多いようで、各社とも本当に苦労されています。ところで、採用活動にも関係しますのでお話しますが、4月から「男女雇用機会均等法」が改正されているのはご存知でしょうか?
宮田部長:
えぇ、法改正があるというのは聞いていますが、その詳しい内容まではあまり把握していません。
大熊社労士:
それでは今日は、御社における実務的な面から改正内容を確認しておくことにしましょう。今回の改正内容を大きく分けると
「性別による差別禁止の範囲の拡大」
「セクシャルハラスメント対策」
「妊娠・出産等を理由とする不利益な取扱いの禁止・母性健康管理措置の実施」
の3点となります。まず、最初の「性差別により差別禁止の範囲の拡大」についてポイントを3つ挙げてみましょう。まずは1)男性に対する差別も禁止の対象となりました。例えば、パートタイムの募集や採用を行なうときにも、女性のみを対象とし、男性を対象外とすることは禁止されました。
宮田部長:
これはいわゆる逆差別の問題ですね。
大熊社労士:
そしてもう一点が、2)禁止される差別の追加です。従来から禁止されていた「募集・採用、配置・昇進・教育訓練、福利厚生、定年・解雇」に加えて、新たに「降格、職種変更、パートへの変更などの雇用形態の変更、退職勧奨、雇止め」についても、性別を理由とした差別が禁止されました。また「配置」に業務の配分や権限の付与が含まれ、これらについても性別を理由とした差別は禁止されます。例えば、営業部門において、男性従業員には外勤業務に従事させるが、女性従業員については外勤をさせず、内勤のみとさせることは業務の配分に差を設けることになり禁止されました。
宮田部長:
営業部へ女性従業員を配属したならば、その女性にも外回りをさせなければならないということですか?
大熊社労士:
必ずしもそうではありません。基本的には女性ということだけで外勤から一切外すという業務配分は禁止の対象となります。もちろん、経験や知識、営業交渉のレベルなどの適性に応じて職務配置を行うのであれば問題はありません。しかし、現実を見ると、特に製造業では慣習的に「男仕事」「女仕事」のようなものがあり、女性には軽易な仕事しか担当させないという企業も少なくありません。こういった配置については問題となってくるでしょう。
服部社長:
言われてみれば、当社にもそんなところがあるなぁ。製造部の女性社員には、もっぱら検査などの仕事を担当させていることが多い。もっとも現場の仕事には危険なものの少なくないし、検査の仕事は女性の方が向いているということで配置をしているつもりではあるけれども….。難しい問題だな。
大熊社労士:
そして「性別による差別禁止の範囲の拡大」の最後のポイントが3)間接差別の禁止です。
宮田部長:
間接差別とは、また難しい表現ですね。イメージができませんので、具体的に教えてくれますか。
大熊社労士:
間接差別とは、例えば女性(または男性)を採用・登用しなくても済むよう、女性(または男性)が満たしにくい要件を課すといったことを指します。具体例としては、以下のような対応がそれに該当しますね。
□荷物を運搬する業務で、リフトなどの運搬具を利用すれば女性従業員でもできるにも関わらず、必要以上の身長、体重や体力を求めること。
□支社や支店が広域にないにも関わらず、転居を伴う転勤に応ずることを採用の要件とすること。
□昇進にあたって、転勤の経験が特に必要ではなく、転勤を伴う人事ローテーションの必要も認められないにも関わらず、転勤の経験を要件とすること。
服部社長:
表面的な差別ではなく、実質的な部分での差別をも禁止するということですね。しかし、現場仕事などは重量のある巻紙などを扱うこともあり、やはり一定以上の体力がないと、現実的には仕事にならないのですが、そのあたりはどのように考えたら良いでしょうか?
大熊社労士:
業務遂行のために合理的な理由がある場合には、体力要件や転勤要件を求めることは、もちろん可能です。合理的な理由まで禁止しているわけではありません。
宮田部長:
大熊先生、私たちの目では差別的な行為があるのかどうかが分かりませんので、一度細部にわたってチェックしてもらえないでしょうか。
大熊社労士:
了解いたしました。その際、やはり現場を拝見させていただきた
いと思いますので、その点を含めて日程調整をお願いします。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。今回は4月施行された改正男女雇用機会均等法について取り上げてみました。男女雇用機会均等法は、働く人が性別で差別されることなく、また働く女性が母性を尊重されつつ、その能力を十分に発揮することができる雇用環境を整備するためのものですが、今回取り上げた「性差別による差別禁止の範囲の拡大」では、「男性への差別の禁止」と「間接的差別の禁止」をまずは押さえてください。実務的には、採用活動のための募集要件の確認や、固定的な観念で業務配分しているようなことがないのかのチェックが求められるでしょう。次回は、引き続き男女雇用機会均等法改正のうち「セクシャルハラスメント対策の強化」について、取り上げてみたいと思います。
関連blog記事
2007年2月22日「平成19年4月に行われる労働関連法改正のポイント~健康保険法・雇均法の改正」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/50895210.html
2007年02月07日「東証第1部上場企業の労使が2007年の課題と考えている人事施策」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/50880852.html
参考リンク
厚生労働省「平成19年4月1日から、改正男女雇用機会均等法等が施行されます」
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/kaiseidanjo/index.html
厚生労働省「男女雇用機会均等法のあらまし」
http://www2.mhlw.go.jp/topics/seido/josei/hourei/20000401-05.htm
厚生労働省「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」
http://www2.mhlw.go.jp/topics/seido/josei/hourei/20000401-29.htm
(鷹取敏昭)
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