最低賃金が大幅に引き上げられるのですか?
プライベートで奥様と一緒のフランス旅行のため、前回訪問時には不在であった服部社長。今回の訪問では、服部社長のリフレッシュした生き生きした姿をとても素敵に感じた大熊社労士であった。
大熊社労士:
おはようございます。社長、お久しぶりです。いかがでしたか、奥様とのフランスの旅行はいかがでしたか?
服部社長:
ありがとうございます。今回はフランスの田舎を中心に回ってきたのですが、ロワールやノルマンディでのんびりしてきました。そうそう、世界遺産に指定されているモン・サン=ミシェルにも行ってきました。やはり、たまには仕事を忘れてのんびりするのも必要だと改めて思いましたよ。今まで仕事一筋でやってきたが今回の旅行で心身ともにリフレッシュでき、余暇の大切さがよく分かりました。うちの社員もほとんど休暇など取らず頑張ってくれていますから、定期的に長期休暇を取得するなど、余暇の有効利用を勧めたいと思っています。
大熊社労士:
モン・サン=ミシェルですか。あそこは素晴らしいですよね。私も以前勤めていた社労士事務所のご褒美旅行で所長に連れて行ってもらったことがあるのですが、あの夕暮れ時の景色の美しさったら、いまでも瞼を閉じれば、はっきりと思い出すことができます。それにしても、在職当時は本当に所長に世話になりました。いまの私がこうして独立して何とかやっていけているのも、当時の所長のお陰です。私のことを本当に信頼してくれて、私もそれに何とかして応えたいという思いだけで頑張ることができました。いまの私があるのも、その所長のお陰であり、本当に感謝しても感謝してもし切れません。あらら、なんだか話が逸れてしまいましたね。モン・サン=ミシェルと言うと、私にとっては昔の事務所のイメージがだぶっているものですから…。いずれにしても、仕事と生活とのメリハリをつけることは、とても大切だと思います。まずお手本を示すのは、宮田部長でしょうか?
宮田部長:
うーん、まずは週1回の定時帰宅をめざして頑張りましょうかね。ところで、先日最低賃金が大幅に上がるというニュースを聞いたのですが、そもそも最低賃金とは何でしょうか教えてください。
大熊社労士:
はい、最低賃金とは賃金の最低限度額を定めたもので、事業主は最低賃金以上の賃金を社員に支払わなければならないというものです。
服部社長:
最低賃金以下の賃金で雇用契約をした場合はどうなるのですか?
大熊社労士:
最低賃金法という法律により無効とされ、最低賃金額を支払わなければなりません。なお、最低賃金には次の2種類があります。まず「地域別最低賃金」は、都道府県ごとにすべての労働者に適用されます。もう一つの「産業別最低賃金」は、都道府県ごとに特定の産業に従事する労働者に適用されることになります。
宮田部長:
「地域別最低賃金」も「産業別最低賃金」も、それぞれ都道府県ごとに違うのですか?
大熊社労士:
ええ、地域によって物価等が違うように最低賃金も都道府県ごとで決められ、その額も違います。
服部社長:
2種類の最低賃金があるということですが、これはどの会社にも当てはまることなのですか?か?
大熊社労士:
いいえ、「産業別最低賃金」はすべての産業で定められているわけではありませんので、必ずしも2種類はなく、「地域別最低賃金」のみしか当てはまらないという会社が多いのです。
服部社長:
それでは2種類とも当てはまる会社では、どのように考えればよいのでしょうか?また、対象となる者は正社員だけでよいのでしょうか?
大熊社労士:
「地域別最低賃金」と「産業別最低賃金」の両方が当てはまる場合は、高い方である「産業別最低賃金」の賃金額以上を支払わなければなりません。また、対象者は正社員のほか、パートタイマーや嘱託社員、臨時で働くアルバイトなどすべての労働者に適用されます。しかし、精神または身体の障害により著しく労働能力の低い者などについては、都道府県労働局長の許可を得ることで適用を除外することが認められています。
服部社長:
パートタイマーも対象となるのですか、注意しなければいけませんね。ところで、最低賃金はどのように定められているのでしょうか?日給とか、時間給とか。
大熊社労士:
時間給の形で定められています。例えば、今年の10月に改定される「地域別最低賃金」は、東京都739円、大阪府731円、愛知県714円となっています。
宮田部長:
社員の給料が最低賃金額以上かどうかをチェックしなければならないと思いますが、どのように計算をするのでしょうか?
大熊社労士:
宮田部長、よく気付かれました、そのチェックが大切なのです。まず、対象となる賃金ですが基本給と諸手当になります。ただし、諸手当のうち、精皆勤手当、通勤手当、家族手当は最低賃金の対象とはなりませんので除外します。また、その他、賞与や時間外勤務手当・休日出勤手当・深夜手当、その他臨時に支払われる賃金なども対象外です。では、最低賃金が700円で月の労働時間が170時間であった場合、基本給と対象となる諸手当の合計額はというと(電卓をたたきながら…)119,000円(700円×170時間)以上でなければならないということです。
宮田部長:
わが社の場合、パートタイマーやアルバイトでも時間給850円以上なので特に問題はなさそうですね。
大熊社労士:
御社の場合は大丈夫だと思います。この最低賃金に関して、最近労働基準監督署の監督が強化されているようで、監督の結果、違反率が6.4%にもなっているという報告がありました。
服部社長:
それは最低賃金を知らなかったからでしょう。
大熊社労士:
そうですね、最低賃金を知らない会社はまだまだたくさんあります。また一見最低賃金を上回る賃金で採用しても、違反状態になることがあります。例えば、サービス残業のため時間外労働等の賃金がまったく支払われない職場では、実質的に最低賃金を下回る可能性もでてきます。1ヶ月の所定労働時間140時間、基本給+対象となる諸手当が100,000円で雇用契約したパートのケースで考えてみましょう。契約時点では時給は714円(100,000円÷140時間)ですが、サービス残業が10時間あったとしましょう。この場合、時間給で換算すると667円(100,000円÷150時間)となりますので、最低賃金が700円だった場合は違反状態となります。
服部社長:
なるほど、しかし違反率がそんなにあるとは驚きました。他人事としていてはいけませんね。
大熊社労士:
違反の中でも特に多いのがパート・アルバイトで56.9%を占めています。サービス残業をさせることはもちろんいけませんが、雇用契約を結ぶときには、最低賃金のことをよく意識しておくことが必要でしょう。また現実的には歩合給要素の強いタクシー業界なので違反が多いようですね。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。今回は最低賃金について取り上げてみました。政府の「成長力底上げ戦略(基本構想)」による「中小企業底上げ戦略」の一環として「最低賃金の周知徹底」が盛り込まれ、「最低賃金遵守のための事業所に対する指導の強化」及び「最低賃金の国民への広報の推進」に直ちに取り組むべき施策とされています。これを受けて厚生労働省では、平成19年6月に全国一斉に最低賃金の履行確保を主眼とする監督を実施したところ、違反率が6.4%にもなっています。厚生労働省では、今後とも最低賃金遵守のための事業所に対する指導の強化に努め、最低賃金の周知徹底を図ることとしていますので、皆さんの会社でも最低賃金に問題はないか確認してください。特に、今年の最低賃金の改定は全国加重平均14円、東京や愛知では20円の大幅な引き上げとなりましたので、注意が必要でしょう。
[関連条文]
最低賃金法 第5条(最低賃金の効力)
使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
2 最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で、最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす。
3 次に掲げる賃金は、前2項に規定する賃金に算入しない。
1.1月をこえない期間ごとに支払われる賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの
2.通常の労働時間又は労働日の賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの
3.当該最低賃金において算入しないことを定める賃金
4 第1項及び第2項の規定は、労働者がその都合により所定労働時間若しくは所定労働日の労働をしなかつた場合又は使用者が正当な理由により労働者に所定労働時間若しくは所定労働日の労働をさせなかつた場合において、労働しなかつた時間又は日に対応する限度で賃金を支払わないことを妨げるものてはない。
関連blog記事
2007年10月1日「平成19年度地域別最低賃金 全都道府県が出揃いました」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51094539.html
2007年9月25日「[最低賃金の計算方法その1]月給者に関する最低賃金の確認方法」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51084458.html
2007年8月23日「最低賃金違反に関する監督が強化されています」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51051136.html
参考リンク
厚生労働省「地域別最低賃金、産業別最低賃金」
http://www2.mhlw.go.jp/topics/seido/kijunkyoku/minimum/minimum-01.htm
厚生労働省「最低賃金に係る違反事業場の割合は6.4%―平成19年6月の最低賃金の履行確保に係る一斉監督結果」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/08/h0822-2.html
(鷹取敏昭)
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