協会けんぽから受けることのできる出産にかかる給付について教えてください

 いつもどおり服部印刷に着いた大熊の目に飛び込んできたのは大きなおなかをした福島さんの姿だった。妊娠中で長期欠勤をしていると聞いていたが、その元気な姿にホッとしながら、玄関に向かった。


福島さん:
 大熊先生、お久し振りです!
大熊社労士:
 福島さん!本当にお久し振り!お元気そうですね!
福島照美福島さん:
 はい、いろいろご心配をお掛けしてすみませんでした。お腹もこのとおりかなり大きくなりまして、あともう少しで赤ちゃんに会えそうです。主人共々楽しみにしています。
大熊社労士:
 あぁ、福島さんの口から「主人」という言葉が出てくるなんて想像もつきませんでしたよ。何だか感慨深いなぁ。
宮田部長:
 大熊先生、そうでしょ!私も同じように思っていますよ。ところで、今日は福島さんが妊娠・出産に関して整理しておきたいことがあるということで、大熊先生が来社される今日、顔を出してもらったんですよ~。
大熊社労士:
 そうでしたか。それで整理しておきたいことというのはどのようなことですか?
福島さん:
 はい、長期欠勤していたのは大熊先生もご存じかと思うのですが、実は5月中旬に切迫流産で緊急入院してしまったのです。赤ちゃんは大丈夫で、このとおりになりましたが、2ヶ月間の安静が必要になったのです。本当にご心配、ご迷惑をお掛けしました。
宮田部長宮田部長:
 本当びっくりしました。ただ、資料はきちんとまとめられており、日頃からメンテナンスしてくれていた引継書と、大熊先生に助けられて無事に今日まで乗り切れているんですけどね。
大熊社労士:
 あはは、かなり焦っていましたが、福島さんの事前の準備もあり、なんとかなりましたよね。ん?切迫流産ということは、傷病手当金の請求ができそうですね。
福島さん:
 そう、今日お聞きしたいのは、その話なのです。私の場合、病院に行ってからすぐに入院になり、会社にはとりあえず年次有給休暇取得をお願いしました。ただ、途中で年次有給休暇の日数が足りずに欠勤となったのです。切迫流産は妊娠によるものなので、この欠勤期間については傷病手当金が請求できないのかなと思いまして…。
大熊社労士:
 総務担当をしている福島さんらしい心配ですね。おっしゃる通り、妊娠や出産は病気ではありませんので、健康保険は利用できないことになっています。ただし、今回のようなケースでは健康保険の給付を考える上では病気として扱われるため、傷病手当金が請求できますよ。
福島さん:
 そうなんですね!退院後も、服部社長の勧めもあって大事を取ってお休みをしていましたので、いろいろと物入りで…(笑)
宮田部長:
 そうだよね。これからいろいろとお金がかかるから、いまから請求をしよう!私が書類の準備をしておくよ!(笑)
福島さん:
 ありがとうございます。ところで、いまは既に産前休暇に入っていて、出産手当金がもらえる日に該当するのですが、このようなときに傷病手当金ももらえる状況だと、どうなるのですか?
宮田部長:
 両方もらえちゃって、給料より多い!なんてことがあったりして~!
大熊社労士大熊社労士:
 そうだといいんですけどね(笑)。これら両手当金とも支給目的は所得の補てんです。このため併給はされません。傷病手当金も出産手当金も「給料が支払われないとき」という条件がありますよね。あくまでも所得の補てんですから、両方をもらうことはないんですよね。あ、もちろん、給料が一部支給されるような場合には、両手当金が調整(減額)されて支給されるケースもありますけどね。話を元に戻すと、出産手当金をもらっている間は、傷病手当金は支給されないことになります。
福島さん:
 やはりそうなのですね。私の場合には該当しませんが、これは引継書にきちんと書いておいたほうがよい内容ですね。宮田部長、お願いしますね!
宮田部長:
 了解!任せておいてよ!メモメモ…。
大熊社労士:
 ついでに、いまからお話しすることも書いておいてください。実際の出産ときの取り扱いですが、通常どおりの出産のほかに、妊娠4ヶ月以後の生産(早産)、死産(流産)、人工妊娠中絶、これらすべてを健康保険での出産と呼びます。ですので、このような場合には原則として一児につき42万円が支給されるという出産育児一時金の請求が可能です。
宮田部長:
 なるほど、メモメモメモ…っと。
大熊社労士:
 さらには、正常な出産(分娩)に関しては、先ほどお話したように健康保険は利用できませんが、帝王切開など、健康保険でいうところの異常分娩の場合には、健康保険を利用できることになっています。帝王切開で分娩するのであれば、医療費の自己負担額が高額になる可能性が高いため、事前に協会けんぽに「限度額適用認定証」の交付を依頼し、医療機関に提出しておくと自己負担額まで支払いで済むので、立替の負担が少なくなりますよね。
福島さん:
 え!そうなんですね。それは知りませんでした。宮田部長、赤文字でメモしておいてくださいね(笑)
宮田部長:< /strong>
 はいはい、メモメモメモメモ…っと。
大熊社労士:
 素晴らし引継書になりそうですね(笑)。以上のように、出産に関しては、病気ではないという部分から、給付が受けられるものと受けられないものとありますので、慎重に考えていく必要があります。今後も妊娠された従業員の方から相談があったら、教えてあげてくださいね。
宮田部長:
 そうですね。ありがとうございました。

>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]

大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今日は久々に福島さんに登場してもらい、出産に関する給付を取り上げました。妊娠時には、体調を崩しやすく一定の配慮が必要になってきます。このように健康保険で利用できるものについてもアドバイスをできるようになっておきたいものです。


参考リンク協会けんぽ「出産に関する給付」
http://www.kyoukaikenpo.or.jp/8,273,25.html

(宮武貴美)

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