海外赴任規程の整備と運用 第2回「海外転勤命令の有効性」

前回は、海外赴任者に適用される国の法律について確認をしました。今回は、海外赴任にあたっての海外転勤命令の有効性について解説をします。

1.転勤命令の有効性

 結論から言えば、転勤命令が不当といわれないためには、就業規則にその根拠が明確になっていなければなりません。多くの企業では、就業規則において、「業務の都合により、社員に転勤等の異動を命じることがある。」という旨の規定が定められています。その規定に基づき、実際に転勤が行われているという実態があれば、社員から個別の同意を得なくとも、転勤命令は有効に行なうことができます。したがって、基本的には、就業規則に基づいた転勤命令を拒否することは業務命令違反にあたり、懲戒処分の対象になるため、社員は転勤命令に従わなければなりません。

2.転勤命令を拒否できる場合

ただし、就業規則に先述の規定さえあれば、転勤命令がいかなる場合でも有効に行なえるわけではありません。対象者の家庭の状況をあまりにも無視したような転勤命令は、有効性が乏しいとされ、無効とされる可能性があります。具体的な例としては、対象者が両親の介護をしており、その者が海外赴任してしまうと介護できる家族がいなくなってしまうような場合等が挙げられます。

3.転籍時には個別同意を

さらに、実務上では対象者から個別に同意を得なければならない場合があります。それは、転籍(移籍出向)を行なう場合です。出張や派遣、在籍出向に関しては、就業規則による包括的な合意のみで転勤命令を有効に行なうことができます。しかしながら、転籍(移籍出向)の場合には、雇用主自体が変わるため、就業規則の規定のみでは足らず、対象者から個別の同意を得ることが必須となります。

4.就業規則の備え

もっとも海外への赴任にあたっては、元々海外への進出をしてなかった企業に採用され、海外赴任は想定外といった反応が従業員からみられることがあります。こうしたことでトラブルにならないようにするためには、就業規則の転勤についての条文において「海外も含む」という旨を明記し、従業員の理解を事前に得ておくことが望まれます。(佐藤和之)

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