中国国内における日系旅行会社からの整理解雇・賃下げの相談

上海にある某日系旅行会社のA総経理から社員に関する相談を受けました。

 中国から日本へ旅行する訪日旅行客数は、2007年に安部総理(当時)が電撃的な中国訪問を行い日中関係が改善の兆しをみせたのを機に、年々目覚ましい増加傾向を示していました。その後、東日本大震災の影響で、2011年後半の訪日旅行客数は一時的に減少しましたが、2012年に入ると再び回復をしはじめ、10月の国慶節(中国の建国記念日による長期休暇)には日本への多くの観光客が見込まれていましたが、9月に尖閣問題が起きたことで、その後は再び減少の一途を辿っています。

 こうした背景から、A総経理からは、会社は最悪の業績であるとの連絡があり、会社を維持していくためには、社員の整理解雇、あるいは賃下げを行わなければならないがどうすればよいのか、という相談を受けました。

 これは、非常に切羽詰った状況であるといえますが、まず法律的に考えますと、①賃下げを行う、②整理解雇を行う、という2つの選択肢がありますが、①賃下げの場合には、社員全員に告知し、同意を得る必要があります。その際、会社に工会(労働組合)があれば、工会の代表者の合意を得ていれば基本的には問題ありません。しかし、単に「賃下げを実行する」とだけ告知すればよいというわけではなく、社員にとっては大変重大なことですから、賃下げを行う場合には、きちんと現在の会社の状況説明をし、生活を脅かさない程度の範囲で実施する必要があります。

 次に②の整理解雇の場合は更に慎重に考えなければなりません。まず「誰を解雇するのか」というリスト作り、その後管轄の労働局へ整理解雇の申請を行い、承認を受ける必要があります。整理解雇は、最大で現在の社員数の10分の1までは法律で認められていますが、その対象者が「給与が高い社員ばかり」とか、「特定の戸籍の社員だけ」というように、会社が整理解雇という名のもとに邪魔な社員を排除していると思われてしまうと、労働局の承認は通常受けることができません。したがって、客観的かつ合理的な理由を有する整理解雇者のリスト作りが必要です。更に、最終的に労働局が承認したとしても、今度は本人にその旨を伝えなければなりません。その際には必ず「なぜ自分が対象になったのか」をその社員から聞かれますので、納得させることができる合理的な説明を用意しておく必要があります。なお、仮に本人が了承しても、「経済補償金(失業補償)」の支払い義務は免れることはできません。

 このように中国では、社会主義、共産主義に基づいた人事政策が行われているため、労働局の承認を受けなければならないなど、人を辞めさせる手続が煩雑です。会社も業績が良いときはこうしたことを考える必要はありませんが、一旦業績が悪化してしまうと、このようなリストラも考えなければなりませんので、常にリスクを考えながら経営をしていかなければなりません。(清原学)

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