海外赴任規程の整備と運用 第5回「海外赴任者の給与設定」

 前回は、海外赴任の形態について解説をしました。その際、在籍出向を行う場合には、海外給与規程において特別な設定をすることとなると述べましたが、今回は、海外給与規程作成の基礎となる海外赴任者の給与設定についての一般的な考え方についてご紹介します。

1.海外赴任者の給与設定
 海外赴任者については、赴任国や地域ごとで税法や社会保険制度の違いがあるため、それを意識せずに給与額の設定を行うと、国内勤務時よりも手取り額が大幅に減少してしまうこともあります。そのため、海外赴任者については、現地の各種制度を意識した上で、手取り額が減らないように、特別な給与の設定を行います。通常、以下のいずれかの方法によって行います。

2.購買力補償方式
 購買力補償方式とは、国内勤務時の給与から所得税等の税金や社会保険料を控除し、手取り金額を算出した上で、この手取り額(つまり、購買力)を補償するという考え方に基づいた方式です。海外基本給は、外部のコンサルタント会社等が調査した生計費指数などを基準にして、国内での手取り額に現地生計費指数を乗じて現地通貨建てで算出します。この方式は、大企業の多くで採用されています。
 購買職補償方式の良い面としては、客観的な指標を基に決めるため、不公平感が排除でき説得力があるというところが挙げられます。しかしながら、生活費指数のデータを外部のコンサルタント会社から高い費用で購入しなくてはならないことや設計の自由度が乏しいといった側面があるため、赴任者や赴任国・地域の少ない中小企業にとっては、使い勝手が悪いといわれています。

3.併用方式
 併用方式とは、国内勤務時の手取り額をそのまま保障した上で、国別(都市別)の特別手当を加算方式によって支給するという方式です。海外基本給は、国内勤務時の手取り額を赴任時の為替レートで現地通貨建てにした額とします。その上で、海外勤務手当やハードシップ手当というような名称で赴任先の治安、医療、気候等を勘案した特別な手当を支給します。この方式の特徴は、国内勤務時の手取り額が赴任先に関係なく保障されるため、国内給与との平等性が保ちやすいものとなっています。この方式は、中小企業の多くで採用されています。

4.別建て方式
 別建て方式とは、国内における給与とは無関係に、赴任先の国や地域、赴任中の役割等に基づいて給与を設定する方式です。国内の現行制度に縛られないため、導入はしやすいですが、国内給与とのバランスが取りづらく、この方式を導入している企業はあまり多くはないようです。

 いずれの方式を選択するかについては、それぞれの方式の特徴を十分に理解した上で、企業規模、赴任国・地域の数、海外赴任者の人数等を勘案し、自社に適したものを選択することが望まれます。(佐藤和之)

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