中国労働仲裁の仕組みと仲裁現場からみた企業が対応すべきポイント(1)

 労働仲裁。できることならあまり関わりたくないところですが、昨今会社と従業員との間で労働争議の件数が急激に増加していることや、その質的な変化も伴って、残念ながら争議に発展してしまうケースが後を絶たない状況が続いています。そうした中、従業員との労働争議を解決する機関である「労働仲裁委員会」のしくみや手続、もっと言えば存在すら知らないことで、従業員に対する賠償金等、不要なコストを捻出している企業もあるようです。そこで労働仲裁委員会とはどのような組織であり、仲裁までのプロセスや仲裁の傾向はどのようになっているかをきちんと理解して頂くことは非常に重要なことであります。これから数回に渡り労働仲裁について解説をしていきますので、今後争議が起こった際の解決の糸口にしてもらえればと思います。

増加する労働争議
 まず中国における労働争議についてお話をします。本来中国は、社会主義国家であるが故、国の体制上、労働争議はあり得ないわけです。未だにストライキの概念すら存在しておらず、ストライキが発生しても、それは「サボタージュ」という呼称に置き換えられてしまいます。しかし1978年から始まった「改革・開放政策」により、中国では、「社会主義市場経済」を進めていく中で、「労働者(従業員)」と「資産家(企業)」の階級が発生しました。そこには概念的に“搾取する側”と“搾取される側”が現れ、これが今日の貧富の差を生んでいます。そうなると「もっと給料をよこせ」とか、「昼飯がマズイ」という要求が従業員から噴出し、これが労働争議の発端となってくるわけです。そのような社会的背景もあり、1980年以降、会社を相手取った労働争議は年々増えてきていました。

 そうした中、労働争議が爆発的に増える要因となった法律が2008年に施行されました。「中国労働契約法」です。それまでの争議件数は毎年微増でありましたが、労働契約法の施行を境に上海市では前年の2倍、広東省ではなんと3倍も争議が増えてしまったわけです。(ちなみに中国で労働争議の多発地域は広東省、江蘇省、上海市の順で、この3地域で全体の45%を占めています)。そうなると企業も「これはたまらん」ということになり、国も労働仲裁の機能整備に取り組み始めました。これが今日、労働仲裁委員会が注目される要因となっているのです。(清原学)

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