中国労働仲裁の仕組みと仲裁現場からみた企業が対応すべきポイント(3)

労働仲裁はどのようにして行われるのか
 仲裁の手順は、上海市でも各々の区によって、また、他の市でも若干の異なりがありますが、ごく一般的に実際の仲裁がどのように進んでいくのか、少し現場を覗いてみましょう。
 
 まず仲裁委員会に赴き、受付に送られてきた通知書を提出します。すると受付担当者から、部屋を指示され、その部屋で待つことになります。部屋は、広さで言えば15平米くらいでしょうか。仲裁委員のデスクとソファーが置いてあり、ソファーに会社から来た者と従業員が並んで座ります。最初から仲裁になるケースもありますが、大半は仲裁委員による和解発議となります。まず、それぞれの言い分を仲裁委員に説明することになります。仲裁委員は一通り双方の主張を聞いた後、会社側に「和解するつもりはないか?」と訊ねてきます。仲裁委員は、何はなくともとにかく和解を勧めるのです。これはどこの仲裁委員会でも同じことで、格式的、一様に和解を勧めてきます。

 ところがここで問題が起こります。和解しないか、ということは、即ち会社はこの従業員の要求を飲むつもりはないか、ということです。和解というとあたかも平和的解決に聞こえますが、従業員の要求とはすなわち金銭の支払いということが多く、さらに私が見てきた日系企業で起こった労働争議の多くは、会社が法律どおりに物事を処理していても起こっているのです。

 従業員が仲裁の申請を行えば、仲裁委員会は大半受理してしまいます。それでいて、更に上積みして金銭を支払えとはいささか乱暴なものです。もちろんここで要求通りの金銭を支払うことで解決をするということもできます。しかし、これに対して会社は法律の規定をきちんと遵守して従業員の処理をしたことを懇々と説明すると、今度は仲裁委員がタジタジになっていきます。最後は回答に窮するのか、「日系企業なのだからお金はあるでしょう?」と言って来ます。そこでこちらは、「お金の問題ではない。それであれば和解はしない。」と伝えれば、「それでは仲裁ですね」という結論になります。

 このように、和解の段階で要求に応じるのか、あるいは仲裁まで持ち込んで徹底的に抗弁するのか、それは会社の方針次第です。すべてがこのような仲裁委員ではないでしょうが、どこの仲裁委員会で審判するのか、誰が仲裁委員になるのか、そこは運次第と言えます。

 ちなみに私は和解交渉が終了した後、担当した仲裁委員にこっそり「あなたは本当に相手(従業員)の言い分が正しいと思ってるのか?」と聞くことがありますが、「いや、彼(彼女)は少し変わってる。普通はあのような申請はしません。」という答えが返って来ることがあります。「それなら何故あの時そう言わないのか?」と更に問い詰めると、「仲裁申請は従業員の権利だから」といったおかしな話になることがあります。このようなやりとりをしていても不毛なだけですので、ここは一旦流してしまいますが、法律も仲裁機関も従業員保護、従業員寄りに考えている、ということには間違いないようです。(清原学)

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