中国労働仲裁の仕組みと仲裁現場からみた企業が対応すべきポイント(4)
和解交渉が決裂すると、その日はとりあえず帰されます。後日改めて、労働仲裁の日時や場所が書かれた通知が届きます。再度指定された日に仲裁委員会に赴くと、今度は正式な労働仲裁となります。裁判所でいう簡易裁判法廷、あるいは小法廷のようなところで、仲裁委員2名(1人は仲裁進行役、もう片方は記録係)を挟んで、原告・被告のテーブルが向かい合って並べられ、そこで丁々発止のやりとりを行います。
小一時間、それぞれの主張を述べた後、最後に議事録が回され、それに会社、従業員双方がサインをすることになります。議事録はもちろん中国語で書かれていますが、この議事録はしっかりと内容を確認すべきです。時々、言ってもいないことが言ったことになっている場合があるからです。このような場合は、「こんなことは言っていないからサインできない」とはっきりと主張することが大切です。仲裁委員からは、「サインできないのなら“拒否”と書きなさい」と指示がされます。議事録の誤記が後々の結果を間違った方に進めてしまうこともあるので、細微に渡って十分な注意が必要です。
労働仲裁が終わると、それから1週間から10日くらい経った後、仲裁判決の通知が届きます。これにより、会社、従業員それぞれの主張に対して審判が下るわけです。その判決に対して、会社、従業員のどちらか、あるいは双方が不服を申し立てた場合には、今度はいよいよ裁判ということになりますが、裁判については今回の趣旨から外れますので割愛します。
なお、労働仲裁を行う場合には、本人(会社)のみで仲裁に臨むことも可能ですが、代理人を選定することができます。労働仲裁は正司法ではないので、代理人は必ずしも弁護士である必要はありません。私自身、数多くの代理人を務めていますが、日本人であり、中国の弁護士資格を持っているわけでもありません。そのような者であっても代理を務める会社からの委任状とパスポートさえ持参すれば、代理人として交渉を担当することができるのです。
さてここで、労働仲裁として受理されるべき争議の内容について紹介したいと思います。一般的にはあまり知られていませんが、仲裁委員会の内部では、次のように規定がされています。(清原学)
1、労働関係(雇用関係)のそのものが原因で発生した紛争
2、労働契約の締結、履行、変更、中止、解除、終了により発生した紛争
3、解雇、離職、異動により発生した紛争
4、労働時間、休憩休日、社会保険、福利厚生、研修及び労働保護により発生した紛争
5、労働報酬、労災治療費、経済補償金及び賠償金により発生した紛争
6、会社が従業員に対し経済処罰(罰金)などの懲戒を行う際、報酬に影響させたことにより発生した紛争
7、 集団契約の履行に関する紛争
8、 従業員の人事書類の移転により発生した紛争
9、従業員の社会保険移転に関する紛争
10、労働者から保証金、担保金などの財物を受領した際に発生した紛争
11、労働者の身分証明書、学歴証明書、学位証明書、資格証明書などの差し押さえにより発生した紛争
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