中国労働仲裁の仕組みと仲裁現場からみた企業が対応すべきポイント(6)

労働仲裁委員会の使い方
 私が企業の代理人を担当してきて感じることを書いて、この寄稿の結びとしたいと思います。

 従業員から訴えられる。確かに会社としてはあまり見栄えがよいものではありません。場合によっては、本社が驚いて、「裁判?そんなみっともないこと、止めろ」と言ってくるかも知れません。それはその通りで、従業員と話し合って解決できるようであればそれに越したことはありません。ただ、話し合える一線というものがあります。肝心なのは「悪しき前例を作らない」ということだと思います。もちろん会社は法律の基準に満たないことをしてはなりませんが、仲裁を恐れるがばかりに法律以上の施しをするということもすべきではありません。仲裁になることを避けるがために「なあなあ」で解決してしまうと、後々厄介な問題に発展することもよくあるからです。

 例えば仲裁が面倒だからと言って、従業員からの不当な要求を飲んでしまったとします。それでその場は解決できますが、周りの従業員はよく見ています。「あの従業員にあれだけのお金を出したのだから、自分が辞めるときも同じようにもらえるだろう」と考えるのです。実際によく起こるものとしては、随分昔に辞めた従業員からも電話がかかって来て、「私が辞めたときはそのようなお金をもらっていません。今から払ってくれますか?」と要求が来るケースがあります。このような事例は、枚挙に暇がありません。

 したがって、会社としては、法律に定められていることを確実に行ない、従業員がそれ以上のことを要求してきた場合には、毅然として撥ね付けることが大切です。それで仮に仲裁になったとすれば、それは堂々と、粛々と立ち向かうべきです。案外、従業員はダメもとで要求をしてきていることも多いものです。会社は、従業員に「要求すれば言うとおりになる」と思われたら終わりです。労働仲裁という傷の一つや二つ、どの会社も持っているという心持ちで、仲裁を恐れず、第三者に判断してもらおうというくらいの気持ちで望んでいただきたいと思います。(清原学)

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