どうなる?2013年中国現地法人の労務管理~今年を予測する5つのポイント~第1回

 2008年1月に施行された「中国労働契約法」による労働者保護政策の影響により、1年間に申請される労働仲裁の件数は、上海市で約2倍、広東省では3倍を超える数字にまで膨れ上がっており、中国現地法人のオペレーションにおける労務リスクも年々高まってきています。さらに、2012年9月に中国各地で発生した反日デモでは、チャイナリスクが改めて露呈しました。
 
 このような実情を見てもわかるように、中国では日本以上に従業員の労務管理が難しく、労働トラブルを未然に防ぐためには、今、中国政府がどのような労働環境整備を進めており、今後数年間にどのような労働政策を採るのかについての認識を深め、対策を講じていくことが企業にとって極めて重要なポイントとなります。まさに「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」ということです。

 そこで、今回は、昨年までの数年間に中国の労働環境がどのように変化してきたのかを確認した上で、2013年の労働政策について、中国政府はどのように舵取りを行っていくのかを整理し、今年の見通しを解説したいと思います。

1 最低賃金の引き上げは、今年も継続して実施されるのか
 2013年1月25日、中国人力資源社会保障部(日本の厚生労働省に相当する官庁)が発表した統計によると、2012年中に中国全土で25省市が最低賃金の引き上げを行い、その平均引き上げ幅は前年比で20.2%にも及んでいます。

 給与が1年間で2割も上昇すること自体、凄まじい勢いですが、それだけでなく、賃金の上昇に伴い、従業員の社会保険料や残業手当も同時に増えていくわけですから、総額人件費ベースで考えると企業にとっては大変な負担増になっているのは間違いないところです。

 また、そのうちの23省市が「賃金ガイドライン」を公布しています。「賃金ガイドライン」とは、各地方行政が目指すその年の昇給目標であり、域内の企業にとっては一定の拘束力を持つもので、昇給における「上限値」「基準値」「下限値」の目標数値が示されています。参考までに紹介すると、上海市の2012年度における賃金ガイドライン(昇給目標)は、上限値16%、標準値12%、下限値5%となっています。次の表は、上海市における過去5年間の賃金ガイドラインと最低賃金の推移を表したものです。

無題

 2009年には金融危機の煽りを受け、企業の経営悪化、それに伴う負担を軽減させるために最低賃金の引き上げ、昇給ガイドラインの発表は見送られたとはいえ、過去の統計から見てもここ数年間の地方政府の方針として毎年10%以上の昇給を奨励しているのがわかります。

 一方で念頭に置いておかなければならないのは、2011年春に開催された全国人民代表大会(第12次5ヵ年計画)において、2011年から2015年までの5年間で企業従業員の賃金を年率15%のペースで引き上げ、2015年には従業員の所得を2倍の水準にまで持っていくという方針決議がなされたことです。

 GDP構成ベースを見ると、GDPに占める消費の割合がアメリカでは7割、日本では6割であるの対し、中国は全体の37%と極めて低く、中国の発展モデルに歪みが生じていることがわかります。そのため、健全な成長発展を持続させるために、個人消費の比率を高め、その基礎となる所得分配を進めていくことに政府が積極的な介入を行う意図があることが窺えます。

 その目的を達成させるためには、金融危機のように極端な景気の減速がない限り、この5年間は前述のような平均的、かつ高比率な賃上げ、更に域内企業に対する政府の指導が厳しさを増していくことが明らかに予測されます。このような政策的背景から見ても、2013年も引き続き最低賃金の調整と賃金ガイドラインが公布され、企業としては継続的なコスト増が強いられるものと思われます。(清原学)

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