どうなる?2013年中国現地法人の労務管理~今年を予測する5つのポイント~第2回
「虹彩計画」と集団契約の監視強化
日本のメディアで報道される機会は非常に少ないのですが、中国では今、「虹彩計画」という政府施策が静かに進められています。これは企業従業員の労働環境の改善と保護を目的として、工場における安全衛生管理や女子従業員の母体保護等を政府主導で推進していくものです。
このうち注目されるのが「企業従業員に関する集団契約」です。ご承知のとおり従業員と企業とは、個別の労働契約を締結しています。そこには労働条件や報酬等が個別に決定され、双方合意を得て労働契約を結ぶわけですが、このような個別の条件協議の前に、全従業員と企業とが包括的な契約を結ぶべきであるというのが、ここでいう「集団契約」です。
ここ数年、この集団契約の締結をするよう、企業、そして企業内工会(労働組合)に積極的に働きかけがされています。集団契約によって従業員の権益を保護し、更に従業員の所得水準を高めていこうとする動き、これがまさに「虹彩計画」そのものなのです。
この集団契約に記載され、企業と従業員との間で「厳格に約束」されるものの一つに、昇給率があります。従業員あるいは工会(労働組合)と企業は、協議合意の上でその年の昇給率を決定するよう、地域を管理している総工会(労働組合の上部団体)から指導が行われています。
このような措置に基づき、従業員の処遇を企業の業績や董事会、あるいは総経理が任意に決定できる裁量は、年々非常に限定的になってきています。経営の立場から見れば、まだその年の業績も明らかにならないうちからこのような契約を結ぶことに対しては大きな抵抗感を抱くと思われますが、中国政府としては労働環境や就業条件の改善、労働者、取り分け低賃金で就労している者の賃金条件の向上を目指しているため、今後は一層、このような指導体制が強化されていくことは十分に考えられます。
また、その国の所得配分を表す「ジニ係数」について見ると、信頼性の高い統計によれば、中国は既に0.6を超えており、所得の格差が年々広がってきています。ちなみに、日本のジニ係数は0.28で、日本は世界的に見ても極めて公平な社会と言えるのですが、中国の場合、危険水域と言われる0.4を大きく超えているわけです。この状態が長く続くことで中国国民の多くを占める貧困層からの批判、抗議活動は看過できないものとなってしまうことから、中国政府としては所得の再分配が非常に優先度の高い政策の一つとして挙げられています。このような社会的背景もあり、中国政府としては今後、労働者の保護、労働環境や所得の保全、集団的な福利享受のための政策に取り組んでいくことは必至の状況となってきています。(清原学)
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