どうなる?2013年中国現地法人の労務管理~今年を予測する5つのポイント~第5回

  企業にとっては大きなインパクトである「中国賃金条例」

 中国にはすでに「中国賃金条例」という法案があり、以前からその公布のタイミングを耽々と狙っています。この賃金条例は、2008年に施行された「労働契約法」をも上回るほどのインパクトを企業に対して与えるとも囁かれています。
  
 賃金条例は、2010年に第一次草案が起草され、3回の草案変更を経て、現在は中国法制弁公室内部で公布を控えています。3回も草案変更があったのは、中国の業界団体から一斉の反対を受けてのことです。それだけ企業にとっては大きな影響を与える法案となっています。

 本来この賃金条例は、2011年内に公布される予定でしたが、中国政府にとって悲願でもあった「中国社会保険法」が先に公布されてしまい、インパクトの大きい法律を同時に公布することで産業界の動揺を避けた当局が、賃金条例の公布を先送りした経緯もあります。

 中国賃金条例の狙いは、「同一労働同一賃金」を実現する賃金体系モデルに関する行政機関からの指導、賃金の決定、安定した昇給保証、企業の業績を反映した賞与の決定とそのプロセスの確立などが挙げられます。このように、この賃金条例の目指すところが「従業員の処遇の確保」である以上、その通過機関である工会(労働組合)の存在は不可欠なものとなってきます。即ち、賃金条例の施行と共に、一定の条件を満たした企業に対しては、強制的に工会を組織化させるというシナリオもそこには包含されているのです。したがって、現在工会を組織していない企業は、早晩のうちに工会を設立しなければならなくなります。

 また、従来は企業が任意で、あるいは工会に報告するだけで決定できていた昇給や賞与についても、賃金条例では工会の審議を経て決定することが求められてくると見られています。また、このように工会が審議を行う上で必要な企業の経営情報、例えば収支報告や資産状況に関し、企業は工会に対して積極的に開示していくことも同時に要求されることになるのです。

 このように2013年は、所得政策、従業員の労働環境・条件の保護、それを背後から支援する法律の公布等、企業の組織のあり方、企業と従業員との労使関係に対し、その価値観を根底から大きく揺るがす動きが予測されます。従業員の権益保護、権益意識はより一層進化し、それが故に企業は、マネジメント体制を再点検し、磐石なものとしていかなければなりません。初回にも述べたとおり、「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」です。労務リスクを未然に防ぎ、中国における事業活動を更にステージアップさせていくためにも、現地の組織体制づくりと、本社の理解とバックアップは、必要不可欠でしょう。(清原学)

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