労務派遣の制限と同一労働同一賃金、処遇制度への反映

1.労働契約法と労務派遣
 中国労働契約法上の「労務派遣(※)」が2013 年7月1日から改正されます。労務派遣については、もとより労働契約法の中で規定がされていましたが、それを今回、「三性(臨時性・補助性・代替性)」という言葉によって再定義したわけです。つまり正確に言えば、法律の改正ではなく、今まで曖昧になっていたものを今後は厳格に運用するということになります。日系企業に目を向けてみると、派遣を活用している企業は少なくないため、7月からの運用が注目されるところです。
 今回、このように労務派遣のあり方が見直された背景には、中国において「非正規雇用」が問題になっているという現状があります。労務派遣の要件に「三性」を再定義した理由には、「正規雇用と非正規雇用の問題の解消」があると想像できます。日系企業の場合、一部のワーカー派遣を除いては、全従業員が派遣従業員というケースが多く、正規・非正規の格差など付けようもないですが、中国系企業の中には、派遣によって従業員の雇用の安定を損ねている企業も相当数あると思われます。だからと言って、そこだけをつまみ出すわけにもいかないため、法律全体に大網を被せてしまい、全ての企業に対して制限を行ったというわけです。

2.同一労働同一賃金という解釈の罠
 労務派遣の問題と同時に「同一労働同一賃金」が日系企業の間でも話題になっています。この同一労働同一賃金という考え方も実は正規雇用の従業員と派遣従業員間の処遇の格差を解消させるための概念なのですが、これを文字通り解釈すれば、「同じ仕事をしていれば、同じだけの賃金が支給されるべきである」という意味になります。これは、例えば年齢とか勤続年数という「属人的要素」を排除し、あくまでも「仕事という枠組み」の中で処遇を決めましょう、という原則によるものです。しかし同一労働同一賃金という解釈を履き違え、単に「同じ仕事で賃金に差をつけてはいけない」というように考えてしまうと、人事考課や個人の成果、処遇の差というものを否定してしまいかねません。成果や頑張り具合を脇に置いて、とにかく「同じ仕事をしているのであれば同じ賃金にしろ」ということであれば、それこそ中国は計画経済時代に後戻りしてしまうので、中国当局もそれは否定しています。したがって、賃金の根幹となる部分は同じ仕事間で同程度にしなければならないですが、決して個々の評価を排除してしまうわけではないことを理解しておかなければなりません。

3.同一労働同一賃金と人事処遇制度
 しかし日系企業の処遇制度を見ると、日本で使われている「職能資格制度」を中国で準用している企業が多いことも現実的には問題があります。職能資格制度の考え方は、「同一労働同一賃金」という概念には馴染みません。職能資格制度では「仕事」という枠の中では捉えず、従業員個々の「能力」で処遇します。さらに勤続年数や年功という属人的要素で賃金を決定してしまう部分が存在します。日系企業もこの職能資格制度から同一労働同一賃金を実現できるような人事制度への転換を図っていく必要があるのは事実です。では、どのような制度が相応しいのか、この点について述べてみたいと思います。

中国の賃金制度を構築する場合、大きく「基本給」「考課給」「崗位給」「手当」に区分されます。次の表は、それぞれがどのような給与であるかを表したものです。

無題

 「同一労働同一賃金」をどこで吸収させるかというと、「基本給」と「崗位給(仕事給)」の2つになります。つまり、「基本給は属する等級に応じて決定する」ということになり、これが職能資格制度と大きく異なる部分です。さらに「崗位給(仕事給)」によって職務間の付加価値を調整します。このふたつの賃金こそが、「同一労働同一賃金」を表現する賃金制度なのです。基本給が上昇する根拠はベースアップと昇格です。ベアは最低賃金やCPI、昇格はより高度で複雑な、習熟度の高い職務ができるようになれば等級が上昇します。また「崗位給(仕事給)」では同じ仕事を同じレベルで遂行できるのであれば同一賃金になり、異なった仕事間では賃金に格差が表現できることになります。
 このように同一労働同一賃金がクローズアップされつつある今、それを実現し、従業員のモチベーションの向上やリテンション、新規採用に効果をもたらし、かつ、運用が容易な処遇制度への転換が必要であると考えています。(清原学)

 ※労務派遣…中国における労務派遣も、形式としては日本の労働者派遣と同様であり、派遣会社と従業員との間で雇用契約を締結し、企業への派遣契約によって労務の提供をすることとなる。日本の労働者派遣と大きく異なる部分としては、日本の派遣会社のように、派遣会社が人材の斡旋を基本としておらず、原則として派遣を受ける企業が人材の募集・面接を行い、採用が決まれば事後に派遣会社を通すというところが挙げられる。

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