海外赴任規程の整備と運用 第7回「赴任時の準備に関する規定(1)支度金」

 今回からは、海外赴任規程に定めておくことが望ましい海外赴任時の準備に関する規定について不定期にはなりますが、解説をしていきたいと思います。初回となる今回は、海外赴任時の支度金についてです。

海外赴任時の支度金
 海外赴任をする際には、海外での生活を始めるために様々な物品を購入する必要性が生じます。例えば、日本とは電圧が異なるため、家電製品の購入をしなければならなかったり、赴任先の住居に合わせて家具の購入をするといったものが挙げられ、それぞれに費用がかかります。海外赴任時の支度金とは、このような海外赴任に当たって特別に発生する費用について、会社がその一部を負担する目的で支給されるものです。

支度金の支給方法
 支度金は、実費弁済の目的で行うため、赴任の際、実際に要した費用すべてを支給することも考えられますが、その費用は各人のライフスタイルによって様々であるため、一定の支給基準を設け、それに従った支給することがよいでしょう。支給基準については、多くの場合、費用に差が生じると思われる要素に着目し、支給額に差を設けます。その要素としては、家族帯同の有無や赴任地域によることが一般的ですが、これまでの生活水準を加味し、役職者に対して厚遇の金額設定をする企業も多く見られます。その一方で、「基本給の○%」「一律支給」とする企業もあるため、支給方法は企業ごとで様々であるといえます。なお、帰任時についても、赴任時と同等に支度金を支給する場合もあります。

支度金の支給水準
 それでは、支度金は実際にいくら支給されているのでしょうか。企業によって支給額に相当の幅がありますが、労務行政研究所が2007年に行なった実態調査では、役職が無い一般社員の単身者の場合で、平均額としては25万円程度、15万円から30万円の範囲内で支給をしている企業が多いようです(労政時報第3714号「海外駐在員の赴任・帰任時の支度料・荷造運送費等の取扱い」)。また、家族帯同の場合の金額設定については、配偶者は赴任者の半額、子供は赴任者の1割程度を上乗せすることが一つの目安になっているようです。

海外出張時の支度金
 海外赴任時だけでなく、海外出張時にも支度金を支給する企業もあります。海外出張時の支度金とは、パスポートの取得・更新手続きやスーツケースの購入等海外出張をするために必要となる費用を想定し、その一部を会社が負担するために支給をするものです。

 海外出張時の支度金は、出張日数、出張地域、役職等によって支給額に差を設ける場合もありますが、出張準備にかかる費用に関して言えば、実際のところ、あまり差がないため、差を設けている企業はさほど多くないように感じます。

 また、以前は大多数の企業が支給を行っていましたが、近年では、支給廃止や支給額の減額が目立ち、支給は明らかに縮小傾向といえます。労務行政研究所が行なった「国内・海外出張旅費に関する実態調査」では、2011年時点で42.5%の企業が一切支給を行っていないと回答しており、これまでの減少傾向から推測するに、現在では約半数の企業が支給をしていないのではないかと思われます。こうした背景には、仕事上に限らず、プライベートでの海外旅行が一般化していきたということが挙げられるのではないかと考えられます。実際、法務省入国管理局の出入国管理統計によると、2012年の日本人の出国者数は約1,700万人となっており、大多数の企業が支度金を支給していた平成の初め頃の出国者数が年間1,000万人程度であったことから、出国者数はこの20年間で約1.7倍に増え、国民の13%程度が毎年海外に赴いている計算になります。そのため、わざわざ支度金を支給しなくともパスポートやスーツケースを所持している社員が多く、支度金支給の必要性が無くなってきているという実態があります。

 以上から、支度金については、まず、その支給基準をあらかじめ明確にしておくことが望ましいといえますが、そもそも自社において支度金制度が必要かも考えていかなければなりません。(佐藤和之)

<海外赴任規程 支度金規定例>

第○条(支度金)
 海外赴任時及び帰任時には、海外赴任により発生する費用の一部を補てんする目的で、下表のとおりの金額を支度金として支給する。
無題

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