【中国社会保険法】外国人適用のゆくえ

 「上海ではまだ外国人の社会保険の徴収は始まらないのでしょうか?」
 日系企業の駐在員の方から、最近時々このような問合せを頂きます。今から約3年前の2010年10月28日、「中国社会保険法」が新たに公布され、翌2011年7月1日から施行されました。この法律の本来の趣旨は、中国人の社会保険制度の整備に関する適用法ですが、本法において中国に在留している外国人に対する社会保険納付義務も定められたことで、現地の駐在員は言うに及ばず、駐在コストの上昇を懸念する日本本社の方にとっても大変気がかりな法律となっていました。

 その後、2011年10月15日からは「外国人適用に関する実施弁法」までもが施行され、北京市がいち早く徴収を開始したことを皮切りに、その後青島や蘇州・無錫なども続きました。いよいよ全国的な広がりを見せるかと思いきや、ここ2年くらいは新規に徴収が始まったという都市の情報は一向に耳にしなくなりました。

 中国の中でも5万人以上と最も多くの日本人が駐在している上海市では、社会保険の徴収が始まる気配すら感じさせません。一時はいつから徴収が始まってもよいように駐在員の社会保険料を計算し、引当金として内部留保をしていた企業も多かったものです。しかしながら、中国の場合、引当金に対しても課税がされてしまうため、年度末には一旦引き当てた額を取り崩さなければなりません。法律の施行からこれまで既に2回の決算を跨いでいますので、企業はその都度引当金を取り崩してきました。

 そのような状況もあり、上海市を含め、これ以上徴収が始まる都市は今後ほとんど現れないということも考えられます。既に徴収が始まっている都市によっては、徴収開始から法律施行まで遡って保険料を納めるよう指導があったところもありますが、法律の施行から既に3年が経とうとしている現在、徴収未実施の都市では、仮に徴収が始まったとしても今さら2011年の10月まで遡ってということはあまり考えられません。

 更に、中国社会保険法施行後、協議が順調に重ねられてきていると思われた日中二国間の社会保険協定も、2012年9月に日中関係に陰りが表れてきたとき以来、協議は進んでいないものと思われます。日中二国間の協定がいつ締結され、いつから発効されるかは、既に不確定な事項になってしまいました。

 新規徴収の開始が止まっている中国側の事情、日中二国間協議が進まない状況を考えると、一体あのときの騒動は何だったのだろうかという気持ちにもなってしまいますが、まだまだ安閑としてはいられないかも知れません。もしかすると上海市もある日突然、徴収義務が発生するかも知れないのです。その思惑や動向は、現在誰も予測することができなくなってしまっています。しかしながら、中国進出企業とその本社においては、今後も引き続き、社会保険の徴収に関する情報収集を行いながら、駐在コストの管理を行い続けて頂きたいと思います。(清原学)

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