中国からの撤退と従業員に対する措置<前編>

 中国進出企業の人件費負担が増えています。従来、利益を確保できていた事業であっても、特に労働集約型の企業においては、人件費の高騰が利益を圧迫し、厳しい経営状況を強いられてきています。昨今の日中関係の悪化が影響し、中国から事業の撤退を考えている企業は多くありませんが、肝心の事業が中国の高コストに振れていく投資環境において、労賃が安い東南アジアへ事業そのものの移管を計画している企業は年々増加の傾向にあるようです。

 以下は、北京市の2001年から2012年までの最低賃金の推移を表にしたものです。私が滞在している上海市でも、滞在を始めた13年前は最低賃金が650元/月程度だったと記憶しています。それが2013年現在では1620元/年となっています。この10数年の間で約1000元も最低賃金が上昇したことになります。最低賃金が上昇するということはそれにつられ、残業手当や社会保険料も増加します。そのように考えると人件費全体の上昇幅は相当な比率になってくることがわかります。

中国撤退2

 
 

 
 中国での人件費の高騰に悩まされる企業は、事業所全体を中国から引き揚げ、相対的に人件費の安い国や地域に事業所を移そうとします。いわゆる中国からの撤退です。撤退と一言で言ってもそうやすやすと事業所を閉めるわけにはいきません。中国の投資環境というものは、「行きはよいよい、帰りは怖い」という言葉で表されるように進出の際は比較的簡単に法人設立ができますが、撤退するときには非常に時間と労力がかかります。下手をすれば撤退できないという企業も出てきたりします。

 その原因のひとつは管轄当局との関係の問題です。一般的に外資企業の中国投資(進出)は「中国工商局」という部門が担当します。進出のときにはこの工商局が営業許可を下すわけですが、撤退の際にもこの工商局が絡んできます。事業によっては、例えば運輸や金融のように特殊な事業であると、中国での事業に対する規制が厳しいものについては交通部とか財務部のような部局まで関係してきます。

 中国にとって外資企業の進出は大きな投資資金を運んでくれるため、基本的に歓迎ムードなのですが、撤退となりますと税収が減る、国民の雇用機会が減少するなど、国や地方行政にとってはマイナスなため、できるだけ撤退させないように動くか、あるいは大変な時間を費やせさせて処理を行わせようと企てます。中には、今まで税制面で優遇してきたのだから、撤退するのであれば享受してきた税金の差額を納めろ、などという、非常に乱暴な命令を出すケースもあります。このような背景があるため、外資企業は「中国事業は割に合わない。でも撤退したくても撤退できない」という状況に陥ってしまうのです。<次回後編につづく(清原学)>

 
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