中国からの撤退と従業員に対する措置<後編>

 2013年8月6日のブログ記事「中国からの撤退と従業員に対する措置<前編>」では、中国からの撤退についてお伝えしましたが、今回の後編では、撤退に伴う従業員への対応についてお伝えします。

 中国では、従業員とは必ず「労働契約」を結びます。この根拠となる法律が2008年から施行されている「中国労働契約法」です。労働契約法では従業員と労働契約を結ぶ際に、定めておく条件や、違反に対する措置の他、従業員を解雇する場合の条件、それによって会社が従業員に対して行う補償などが決められています。事業所を撤退する場合には、そこで勤めている従業員との労働契約を解除しなければなりません。この点については労働契約法の第44条に定められており、「使用者が営業許可証を取り消され、閉鎖を命じられ、取り消された場合又は使用者が事前解散を決定した場合」には、労働契約は「終了」することになります。しかしその上で「経済補償金」というものを会社は従業員に対し支払わなければなりません。この経済補償金は特に例外がある場合を除いて、賃金の1か月分×勤続年数(最高で12か月まで)という計算式で算出がされます。つまり、逆にいうと、この経済補償金さえ支払えば、撤退によって従業員との労働関係を終わらせることができるのです。

 しかし従業員としては、働く機会が無くなったとか、最後だから存分に会社に対して要求をぶつけようという心理が働き、経済補償金をもう2か月分上乗せしろなどと要求してきて、法定の経済補償金だけでは納得しないケースが非常に多いのです。中には、どうせもう辞めるのだからといって、集団でサボタージュ(ストライキ)を企んだり、会社の備品や金銭を持ち出す従業員もいたりします。企業側もどうせ撤退するのだからと、法定の経済補償以上に奮発して支払ってしまうと、これが悪しき前例となり、日系企業は交渉に与しやすいと思われてしまうので要注意です。

 仮に不幸にも中国から撤退しなければならなくなった場合には、従業員に支払う経済補償金以外にもかなり莫大な資金が必要になります。日系企業においては、そのようなことも念頭に置き、従業員への経済補償は法定どおりに支払うという姿勢を貫いて頂きたいと思います。(清原学)

 当ブログの記事の無断転載を固く禁じます。