中国労務の最新事情~現場からの定点観測~第2回

■上海市 2013年10月より社会保険料の料率を引き下げ(2)

(1)中国の社会保険の種類
 前述のように、中国の社会保険は以下の5種類があります。
①養老保険 … 日本の年金保険に相当
②医療保険 … 〃  健康保険
③失業保険 … 〃  雇用保険
④生育保険 … 〃  出産に関する制度
⑤工傷保険 … 〃  労災保険
 このうち生育保険と工傷保険については保険料の全額を会社が負担し、その他の3保険については、会社と従業員がそれぞれ納付料率に従って保険料を納めることになります。

(2)保険料の決定方法
 中国には国で統一された保険料率はなく、保険料率は各行政において独自に決定されています。従って進出企業はその地域の保険料がどのようになっているかを予め調べておく必要があります。

 保険料の決定には、一般的に「基数」が用いられます。上海市を始め多くの中国の都市では、この基数の計算に「前年度のその都市の平均賃金」と「前年度の従業員の一か月あたりの平均賃金」とを双方用いて決定します。

 2013年3月に発表された上海市の平均賃金は4692元です。まずこの平均賃金を使って社会保険料の基数幅(「基数下限」と「基数上限」)を計算します。上海市や多くの都市の場合、基数下限=平均賃金×60%、基数上限=平均賃金×300%という計算によって求められます。前述の4692元という平均賃金を代入すると、
基数下限=4692元×0.6=2815元、基数上限=4692元×3=14076元
となり、2815元~14076元が2013年度(2013年4月~2014年3月)の社会保険基数幅になるわけです。

 次に、従業員(この場合の従業員は、個々一人ひとりの従業員)の社会保険料を算出します。これは先述したとおり、2013年の社会保険基数を出す場合には前年2012年1月から12月までの一か月あたりの平均賃金を計算します。この中には残業手当などの手当や賞与も含まれますので、実質、年収を12で割るということになります。

 仮にA従業員の平均賃金が3000元であれば、上海市の社会保険基数幅(2815元~14076元)に含まれるので、この3000元がA従業員の社会保険基数となります。仮にこの従業員の平均賃金が社会保険基数幅よりも下回ったり、あるいは上回っている場合には、それぞれ下限まで引き上げられ、または上限まで引き下げられることになります。

(3)2%の保険料率軽減の効果
 それでは、今回10月から引き下げられた企業負担分2%の効果はどの程度か見てみましょう。仮に保険料率の基数が5000元の従業員がいた場合、この従業員の社会保険料企業負担分の減額は、5000元×2%の100元の負担減効果をもたらすことになります。毎月100元の負担減。製造拠点のように人数規模が大きい企業はそれなりにまとまった負担減の効果がありそうです。しかし一方では、この基数の算出に用いられる「市平均賃金」や「従業員の昇給率」はほぼ毎年10%前後上昇しているため、結果として社会保険料の負担は今後も毎年増加していくものと思われます。(清原学)

 当ブログの記事の無断転載を固く禁じます。