TOTOのストライキにみる人事制度の扱い方

5月6日、上海市松江区にある「東陶華東有限公司」で、従業員約1000人を巻き込んだ大規模なストライキが発生しました。
東陶と言えば、中国では昔から馴染の深い、都市部の中国人であれば誰でも知っている日本を代表するブランドです。

一部報道の内容によれば、「賃下げ」が事の発端のように報じられていますが、
東陶のような企業がむやみに賃下げを行うとは思えませんし、ましてや上海市も最低賃金が上がったばかりなので、
おそらく何らかの誤解、会社の思いが従業員に伝わらなかったのか、
あるいは別の要因があったところに賃金交渉の手段として使われてしまったのか、
いずれかが本当の原因だと想像するのに難くありません。

いずれにせよ、4月は日系企業の多くが賃金改定を行う時期です。
その時期に合わせて人事制度を変更したということは十二分にあり得る話です。
しかし前述のように、一律賃下げを行うとは考えにくい。
ましてや労働契約というものがある以上、それを東陶が知らなかったとも思えない。

私のところにも人事制度の改定を要望される企業は多くて、常時、5、6社の制度設計を担当しています。
ここ数年の中国、特に上海市の人件費は上昇の一途ですので、
どの企業も従業員の評価や、特にワーカーに対してはインセンティブの計算方法を変えるなど、
人件費の配分に関する考え方を改める企業は少なくありません。
東陶の場合もおそらく同じ状況だったのでしょうが、それが一部の従業員にとっては、「賃下げ」と誤解されて伝わったのでしょう。
結果的に東陶サイドは、実質の賃上げでストライキを収束させたようなので、
折角こしらえた人事制度も、元の木阿弥となってしまったかも知れません。

生産系の企業の場合、ワーカーとスタッフ(ホワイトカラー)とでは、まったく望むものが異なります。
ワーカーの場合、最優先されるものは賃金であり、細かな計算方法はどうでも、
結局、手元にいくらくれるのかしか興味を示しません。
従って私もそうですが、人事制度を改定し、従業員に説明を行う場合には、まず従業員に伝えることがあります。
それは、「制度が変わっても、あなたたちの賃金は減りはしない」ということです。
この一言がなければ従業員は安心してその後の説明を聞くことはできませんし、
会社は何か自分たちにとって不利益なことをしようとしているという先入観を持って聞くことになります。

ここが、人事制度を改定する際の非常に怖いところでして、
納得させる言い方、どうすれば賃金が上がるのか、どうすれば評価されるのかを
十分に伝えていく必要があります。
東陶の場合も、自社だけでなく、どこかのコンサルティング会社に人事制度の改定せを依頼したのでしょうが、
それを思うととても他人事ではなく、言い方ひとつでいつ、自分の身に降りかかってくるかも知れません。

中国の従業員にとってはそれだけ人事制度は重要なことであり、
改定の方法はもちろん、説明の仕方であっても、慎重な表現が求められるのです。

2014年5月19日 清原学