副業者の労災保険の取扱い①給付額の決定における賃金の合算
9月になり、涼しくなる一方で、台風の心配をする時期になったなと思いながら、大熊は服部印刷の門をくぐった。
服部社長
大熊さん、先日、副業に関するガイドラインが出たと聞いたよ。今後、副業・兼業の考え方は変わっていくものなのかね。
大熊社労士
そうですね、大手企業で副業による優秀な人材を確保しようとしているところも目にするようになりましたし、この流れは進のだろうと思っています。今、話題にしていただいた「副業・兼業の促進に関するガイドライン」も注目が必要なのですが、今日は労災保険のお話をしてもよろしいですか?
福島さん
労災保険のお話ですか?
大熊社労士
はい、ガイドラインは先日、公開されたばかりなのですが、労災保険については今年の通常国会で雇用保険法と一緒に改正されており、この9月から施行されています。
宮田部長
あ、なんかあれかな、副業している人がケガをすると、補償が少ないから増やすとかいうやつ。
大熊社労士
はい、その通りです。整理してお話すると、8月まではA社、B社の2か所で勤務している人が、A社で労災事故に遭って休むことになった場合には、A社で支払われていた賃金を基に労災保険の給付額が決定していました。
宮田部長
A社で休まなければならない状況だと、普通はB社でも休むことになりますよね。
大熊社労士
そうでしょうね。ただ、それであっても、補償はあくまでもA社での事故だからA社で支払われていた賃金を基に・・・ということになっていたのですね。
宮田部長
確かに他の会社の労災事故でうちの会社が支払っている賃金が関係してくるっておかしいですよね。
大熊社労士
ですね。ただ、休む従業員からすると、両方の会社を休まざるを得ないのに、補償は1か所のみからの分しかもらえないの!?となります。副業・兼業を促進しているわけですし、労災保険の給付の部分は法改正をして、A社・B社の賃額を合算した額で、給付額を計算してあげようということになったのです。
宮田部長
なるほど。確かに従業員からしたら、そうなりますね。
大熊社労士
ちなみに今のお話は休んだときのものでしたが、賃金額を基に給付額が計算されるものとしては、障害が残ったときの給付や死亡したときの給付があります。これらについても、A社・B社の賃金を合算した額で、給付額が計算されます。
福島さん
大熊先生、そうなると被災しが会社じゃない会社でいくら賃金を払ったかということも、労働基準監督署に届け出ることになりますよね。
大熊社労士
そうなのです。その届出方法については、また、次回、ご説明することにしましょう。
福島さん
よろしくお願いいたします。
>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
おはようございます。大熊です。2020年9月1日より労災保険の給付額の計算については大きな変化がありました。それが複数の会社で雇用されている労働者が労災事故にあった際にすべての勤務先の賃金額を基に給付額を計算するというものです。また、給付額以外にも、勤務先ごとに労働時間やストレス等の付加を評価して労災認定できるかが判断されていたものについて、それぞれの勤務先ごとに個別の評価をして労災認定できない場合には、すべての勤務先の付加を総合的に評価して労災認定できるかを判断することとなっています。
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2020年9月4日「9月1日から労災保険の様式が変更になりました」
https://roumu.com/archives/104255.html
2020年8月27日「要チェック!9月1日より始まる複数就業者の労災保険給付額の合算」
https://roumu.com/archives/104153.html
参考リンク
厚生労働省「労働者災害補償保険法の改正について~複数の会社等で働かれている方への保険給付が変わります~」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/rousaihukugyou.html
(宮武貴美)